神さま、あと三日だけ時間をください。
第4章 ♭切ない別れ♭
昼過ぎ、美海は琢郎の運転するセダンでN駅まで送って貰った。
美海が車から降りるまで、琢郎はくどいほど同じ科白を繰り返した。
「気をつけろよ、女の一人旅は危ないぞ」
「大丈夫よ。あなたも戸締まりと火の用心には気をつけて。明日の夕方には帰りますから」
美海は手を振ると、琢郎に背を向けて小さな駅の改札口を抜けた。
I町へ行くには途中で乗り換えがある。しかし、今回はN町からはシュンと合流し、車で行くことになっている。M町まで一時間、列車が切別駅に到着したのは午後二時を少し回った頃であった。
美海はシュンを車内から探した。上りのプラットフォームにシュンが立っている。美海を認めると、満面の笑顔で手を振ってきた。
「よく来たね。ミュウから返事を貰ったときは、嘘かと思って何度も頬をつねったよ」
「シュンさんったら、オーバーね」
美海が笑うと、シュンが照れたように頭をかいた。
「だって、四日前の君の様子では、到底OKが出るとは思わなかったからさ」
美海はそれには曖昧な笑みで返すにとどめた。
「荷物は俺が持つよ」
美海の下げたボストンを素早く引き取り、自分のボストンと両手に持って歩き出す。
シュンの車はいつもの駐車場に停めてあった。黒い見憶えのある軽自動車に二人して乗り込み、一泊二日期間限定の旅が始まった。
―これが最後。美海が今回、心にしっかりと刻み込んでいるのは、これをシュンとの最後の想い出にしようという想いであった。
だが、琢郎という夫のある身で、美海がしようとしていることは一般的には非常識としかいえないものである。たとえ今回を最後にしようと美海が思い定めたとしていても、家庭のある主婦が若い男と一泊二日の旅行に出かけたという事実だけで、世の中の倫理基準に反するからだ。
でも、そんな常識なんて今は糞食らえだ。今まで生まれてこのかた三十九年間、常識の枠の中でしか生きてこなかったアラフォー女が一生に一度、本気の恋に身を焦がす。一度こうと決めたからには、後悔もしないし後戻りもしたくない。
今、この瞬間から、美海は何もかも柵(しがらみ)から解き放たれて、ただの一人の女になるのだ。
美海が車から降りるまで、琢郎はくどいほど同じ科白を繰り返した。
「気をつけろよ、女の一人旅は危ないぞ」
「大丈夫よ。あなたも戸締まりと火の用心には気をつけて。明日の夕方には帰りますから」
美海は手を振ると、琢郎に背を向けて小さな駅の改札口を抜けた。
I町へ行くには途中で乗り換えがある。しかし、今回はN町からはシュンと合流し、車で行くことになっている。M町まで一時間、列車が切別駅に到着したのは午後二時を少し回った頃であった。
美海はシュンを車内から探した。上りのプラットフォームにシュンが立っている。美海を認めると、満面の笑顔で手を振ってきた。
「よく来たね。ミュウから返事を貰ったときは、嘘かと思って何度も頬をつねったよ」
「シュンさんったら、オーバーね」
美海が笑うと、シュンが照れたように頭をかいた。
「だって、四日前の君の様子では、到底OKが出るとは思わなかったからさ」
美海はそれには曖昧な笑みで返すにとどめた。
「荷物は俺が持つよ」
美海の下げたボストンを素早く引き取り、自分のボストンと両手に持って歩き出す。
シュンの車はいつもの駐車場に停めてあった。黒い見憶えのある軽自動車に二人して乗り込み、一泊二日期間限定の旅が始まった。
―これが最後。美海が今回、心にしっかりと刻み込んでいるのは、これをシュンとの最後の想い出にしようという想いであった。
だが、琢郎という夫のある身で、美海がしようとしていることは一般的には非常識としかいえないものである。たとえ今回を最後にしようと美海が思い定めたとしていても、家庭のある主婦が若い男と一泊二日の旅行に出かけたという事実だけで、世の中の倫理基準に反するからだ。
でも、そんな常識なんて今は糞食らえだ。今まで生まれてこのかた三十九年間、常識の枠の中でしか生きてこなかったアラフォー女が一生に一度、本気の恋に身を焦がす。一度こうと決めたからには、後悔もしないし後戻りもしたくない。
今、この瞬間から、美海は何もかも柵(しがらみ)から解き放たれて、ただの一人の女になるのだ。