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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

 同じ頃、N町のマンションでは琢郎が一人、寝室の窓辺に佇んでいた。
「そう、ですか。いや、それなら良いんです。夜分に済みませんでした」
 琢郎は丁重に礼を述べ、携帯を閉じる。傍らのサイドテーブルに置いたグラスを取ると、大きな溜息をついた。
 琢郎はいつ今し方、交わしたばかりの藤村皐月との会話を思い起こしていた。
 やはりと言うべきか、美海は嘘をついていた。Iホテルで女子高時代の同窓会があるというのは真っ赤な嘘で、美海の親友皐月はちゃんと自宅にいた。
 まさか、妻が不倫をしているらしい、男とIホテルに泊まっているようだが、その口実にIホテルで同窓会があるんだと言い訳して出かけた―などと言えるはずがない。
 仕方なく、夫婦喧嘩して美海が家を飛び出し、ゆく方が判らなくて困っている。そういえば、今週末にIホテルで高校の同窓会があると言っていたから、気晴らしも兼ねてそちらに出かけたのかと思ったのだが、と、苦しい取り繕いをしてしまった。
―皐月さんは手のかかるお子さんがいるから、今回は出席しないというようなことを家内が言ってました。もしかしたら、仲の良い皐月さんには、何か連絡しているんじゃないかと思いましてね。
―あら、そうだったんですか? 若い子じゃあるまいし、喧嘩して家を飛び出して帰ってこないだなんて、美海も大人げないわね。残念ながら、私のところにも連絡は来てないんですよ。でも、おかしいですね。女子高の同窓会が今週、Iホテルであるなんて私は全然聞いてないんですけど。今年の幹事は私が担当してるから、まず間違いはないと思うんだけどなぁ。
 皐月の反応は、はっきりしていた。他ならぬ皐月が同窓会の幹事担当だというのなら、Iホテルの同窓会の件は偽りに違いない。これで、すべて納得がいった。妻はやはり不倫をしていたのだ。
「俺もつくづく愚かな男だな」
 琢郎は呟くと、黙って夜の町を眺め降ろした。町の至る所できらめくイルミネーションがまばゆい光の渦となって眩しく眼を射る。
 ここからの眺めはなかなかのものだ。琢郎の給料では分不相応なほどの高級マンションを買ったのも、妻を歓ばせたいからだった。

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