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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

「ごめんなさい、そして、ありがとう」
 美海はありったけの想いを込めて彼を見つめる。
 あなたと出逢えて、私は幸せだった。
 そう言いたいけれど、今、その言葉を彼に告げたところで、かえってシュンを苦しめるだけだ。
 シュンは哀しげな微笑みを浮かべているだけで、何も言わない。美海も微笑み返し、ゆっくりと背を向けた。
 と、ふいに後ろから手首を掴まれた。
「行くな」
「シュンさん」
 涙が溢れそうだ。だが、ここで泣いてはならない。彼を傷つけ去ってゆく自分には、涙を見せる資格もない。
「本当に行くのか? 俺たちはこれで終わりなのか」
 振り向いてはならないと思うのに、つい振り向いてしまった。
 何かに耐えるような表情、悲痛な声。
 彼のすべてが心に迫ってくる。
 美海は泣きたいのを堪え、微笑みを浮かべた。
「今日という日が過ぎたら、あなたを忘れるわ。だから、シュンさんも私のことはきれいに忘れて」
 言うだけ言うと、美海は小走りに走った。
 涙が次々に溢れてきて、止まらない。
 忘れられるはずがない、忘れられるはずがなかった。でも、これが最後だから、彼に幸せになって欲しいと思うからこそ、心にもない科白を口に乗せなければならなかったのだ。
 心と身体がバラバラになりそうだ。

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