山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第5章 旅立ち
それはやや大きめの封筒である。封筒から更に一通の書状を取り出し、読む前に立ち上がり、都に向かって跪いて手をつかえ拝礼を行った。王宮におわす国王への挨拶のつもりであった。これから読む書状は、正しく言えば、暗行御使としての委任状なのだ。
つまり、皇文龍を王命により、暗行御使に任命するという旨のお達しが記されている。
凛花は石に座り直し、改めて書状に眼を通す。
そこには、型どおり、皇文龍を暗行御使に任ずると簡潔に書かれ、更にこれから赴くべき任地が順番に記されている。
皇文龍は病も全快し、当初、国王が命じた日程どおり年内に無事、都を発った―と、今頃は王宮にも報告が届いていることだろう。
許婚者との結婚が春に決まっていた文龍だが、祝言は延期、当人が希望していた祝言を終えての出発は変更となり、予定を早めての旅立ちとなった。―と、国王や議政府には伝えられた。
また、申氏と皇氏の縁組は事実上は破談だとの旨も併せて報告がいっていた。文龍は一個人の幸せよりも国王殿下の忠臣として生きることに生き甲斐を見出そうとしている。そんな文龍の生き方に申氏の娘がついてゆけなくなり、当人同士の意思で祝言も無期延期となったのだとも。
これ以降、申氏の娘は傷心のためか、自室に引き籠もって、人前に姿を現すことはなくなった―。これが凛花が考え出した〝入れ替わり〟の筋書であった。
通常、暗行御使の任命状は国王から直接、手渡されることになっているが、今回は秀龍が預かり、文龍に手渡した。これは極めて異例の計らいで、国王第一の忠臣と呼ばれる秀龍が清宗に願い出たからこそであった。
皇氏の嫡男が国王にすら挨拶もせず、しかも祝言を取り止め予定を繰り上げて出立する―、まさに事態の急展開である。しかも、当人はあれほどまでに祝言を済ませてからの旅立ちを願っていたのだ。もしかしたら清宗自身、事態の異常さに何かしら勘づいているところはあるのかもしれない。大人しい気性ではあるが、けして愚かではなく、むしろ繊細なだけに人の心の機微を読むのに長けている王である。
清宗は朝廷一の忠臣と認める秀龍には何も訊ねようとしなかった。己れの保身や出世しか頭にない高官たちの中にあって、皇秀龍は清宗が心から信頼を寄せる数少ない臣下の一人だ。
つまり、皇文龍を王命により、暗行御使に任命するという旨のお達しが記されている。
凛花は石に座り直し、改めて書状に眼を通す。
そこには、型どおり、皇文龍を暗行御使に任ずると簡潔に書かれ、更にこれから赴くべき任地が順番に記されている。
皇文龍は病も全快し、当初、国王が命じた日程どおり年内に無事、都を発った―と、今頃は王宮にも報告が届いていることだろう。
許婚者との結婚が春に決まっていた文龍だが、祝言は延期、当人が希望していた祝言を終えての出発は変更となり、予定を早めての旅立ちとなった。―と、国王や議政府には伝えられた。
また、申氏と皇氏の縁組は事実上は破談だとの旨も併せて報告がいっていた。文龍は一個人の幸せよりも国王殿下の忠臣として生きることに生き甲斐を見出そうとしている。そんな文龍の生き方に申氏の娘がついてゆけなくなり、当人同士の意思で祝言も無期延期となったのだとも。
これ以降、申氏の娘は傷心のためか、自室に引き籠もって、人前に姿を現すことはなくなった―。これが凛花が考え出した〝入れ替わり〟の筋書であった。
通常、暗行御使の任命状は国王から直接、手渡されることになっているが、今回は秀龍が預かり、文龍に手渡した。これは極めて異例の計らいで、国王第一の忠臣と呼ばれる秀龍が清宗に願い出たからこそであった。
皇氏の嫡男が国王にすら挨拶もせず、しかも祝言を取り止め予定を繰り上げて出立する―、まさに事態の急展開である。しかも、当人はあれほどまでに祝言を済ませてからの旅立ちを願っていたのだ。もしかしたら清宗自身、事態の異常さに何かしら勘づいているところはあるのかもしれない。大人しい気性ではあるが、けして愚かではなく、むしろ繊細なだけに人の心の機微を読むのに長けている王である。
清宗は朝廷一の忠臣と認める秀龍には何も訊ねようとしなかった。己れの保身や出世しか頭にない高官たちの中にあって、皇秀龍は清宗が心から信頼を寄せる数少ない臣下の一人だ。