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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第6章 最初の任地

「何だとォ?」
 別の小柄な男が気色ばむ。
「色男ぶるのは結構だが、俺たちが誰か知った上で邪魔立てするつもりか?」
 首領が小男を制して問う。
 凛花はわざとらしく肩を竦めて見せた。
「さあ?」
「こ、この野郎」
「待て」
 首領は鋭い一喝で小男を黙らせると、凛花に冷たい眼を向けた。
「俺たちはこの地方一帯を治める県監さま(ヒヨンガンナーリ)にお仕えする者だ。お前はどうやらその風体から旅の者のようだから、一つだけ忠告してやるが、ここいらでは県監さまの力は都の国王さまよりも強く及んでいる。下手な義侠心など起こさない方が身のためだぞ?」
 最後は馬鹿にしたように言うのに、凛花は笑った。
「それはどうもご親切に。忠告はありがたく受け取るよ。だが、私は生憎と偏屈な性分で他人に指図されるのは嫌いなんだ。特に相手が説教なんぞできるようなたいした人間じゃないときはね」
 凛花は大きな袋と一緒に背負った長剣をおもむろに手に取り、構えながら不敵な笑みを浮かべた。
「そうか、ならば、やむを得ないな」
 首領が顎をしゃくるのを待っていたかのように、悪党どもが一斉に飛びかかってくる。
 男たちは皆、木刀か短剣を持ってはいるが、凛花のように正式に武芸の訓練を受けた者はいない。真冬だというのに、粗末なパジチョゴリを纏ったきりなのを見れば、彼等が適当に集められたごろつきだということは判った。
 つまり、悪漢どもも、この国の民なのだ。無辜とはいえないかもれしないが、民を無闇に傷つけるわけにはゆかない。
 凛花は長刀を抜いたものの、向かってきた男たちを斬らずに鞘で打ち据えるだけにとどめた。
 凛花を助けるかのように、たった一人で女を守ろうとしていた男も悪漢どもを相手に応戦している。凛花の読みは当たった。その男は凛花と同等か或いはそれ以上、武芸の嗜みがあるようで、とにかく強い。
 凛花一人でも、この程度の悪漢なら数人纏めて相手にできるが、これほどの腕を持つ助っ人と二人でかかれば、すべての男どもをこてんぱんにのしてやるのにもさして刻は要さなかった。

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