山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第6章 最初の任地
凛花が我に返ると、ヘジンの気遣わしげな表情が眼に入った。男たちのあまりにも素っ気ない態度に恩人が気を悪くしたのではないかと心配しているのだ。心の優しい娘なのだろう。
取り立てて美人ではないけれど、女らしい優しげな顔立ちは、どこか乳姉妹(ちきようだい)のナヨンを思い出させる。ナヨン、早くに母を喪った凛花にとっては侍女というよりも実の姉に近い親しい存在であったナヨン。
ナヨンを思い出すと、再び抑え切れない郷愁が凛花の心を絡め取ろうとする。
凛花は望郷の念を無理に追い払い、明るい声音で言った。
「いや、ご心配には及びませんよ。都に暮らす時分から、様々な人に好き放題に言われていましたからね。あなたの恋人が私を警戒するのも無理はない。しかし、こう見えても、都から遠く離れてまで浮き名を流そうとは思いません。一人の女人に対しての誓いを守るくらいの節操は持っているつもりです」
「それでは、あなたさまにも都に決まったお方がいらっしゃいますの?」
ヘジンの応えから、凛花の想像どおり、チルボクという若者がヘジンの恋人であることが察せられる。
凛花は頷いた。
「いると言うよりは、いたと言った方が良いかもしれませんね」
訝しげな顔のヘジンに対して、凛花は少しだけ声を落とした。
「私の許嫁は亡くなったのですよ」
婚約者が亡くなったというのは満更、嘘ではない。ただ、この場合、男女が逆転しているのは説明していないだけだ。
「そう、なのですか。哀しいことを思い出させてしまったようで、申し訳ありません」
「いいえ、このような不実な恋人を持って、彼女はさぞかし不幸せだったに違いありません」
さも哀しげに眼を伏せると、ヘジンの真摯な声が間近で聞こえた。
「いいえ、私は若さまがご自分でおっしゃるような浮ついた方ではないと思います」
「そうなのか?」
凛花は興味深げに問い返す。
「私には難しいことは判りませんが、人の本性というか、その方が真に善人なのか悪人なのかくらいは判るつもりです。若さまは、けして他人(ひと)が言うような浮ついただけの方ではありません」
取り立てて美人ではないけれど、女らしい優しげな顔立ちは、どこか乳姉妹(ちきようだい)のナヨンを思い出させる。ナヨン、早くに母を喪った凛花にとっては侍女というよりも実の姉に近い親しい存在であったナヨン。
ナヨンを思い出すと、再び抑え切れない郷愁が凛花の心を絡め取ろうとする。
凛花は望郷の念を無理に追い払い、明るい声音で言った。
「いや、ご心配には及びませんよ。都に暮らす時分から、様々な人に好き放題に言われていましたからね。あなたの恋人が私を警戒するのも無理はない。しかし、こう見えても、都から遠く離れてまで浮き名を流そうとは思いません。一人の女人に対しての誓いを守るくらいの節操は持っているつもりです」
「それでは、あなたさまにも都に決まったお方がいらっしゃいますの?」
ヘジンの応えから、凛花の想像どおり、チルボクという若者がヘジンの恋人であることが察せられる。
凛花は頷いた。
「いると言うよりは、いたと言った方が良いかもしれませんね」
訝しげな顔のヘジンに対して、凛花は少しだけ声を落とした。
「私の許嫁は亡くなったのですよ」
婚約者が亡くなったというのは満更、嘘ではない。ただ、この場合、男女が逆転しているのは説明していないだけだ。
「そう、なのですか。哀しいことを思い出させてしまったようで、申し訳ありません」
「いいえ、このような不実な恋人を持って、彼女はさぞかし不幸せだったに違いありません」
さも哀しげに眼を伏せると、ヘジンの真摯な声が間近で聞こえた。
「いいえ、私は若さまがご自分でおっしゃるような浮ついた方ではないと思います」
「そうなのか?」
凛花は興味深げに問い返す。
「私には難しいことは判りませんが、人の本性というか、その方が真に善人なのか悪人なのかくらいは判るつもりです。若さまは、けして他人(ひと)が言うような浮ついただけの方ではありません」