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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第6章 最初の任地

「それだけではありません。県監さまが来る前から、この辺りは干魃や豪雨が続き、疫病の蔓延が起こっています。それでも、若い者はまだ良いのですが、年寄りや幼い子ども、弱い者たちから飢えや病の犠牲になっていっています。なのに、国王さまは私たちに何の救いの手も差しのべて下さらないのです。都に住んでいる民も、地方に住んでいる私たちも皆、この国の民ではありませんか? 県監さまは私たちを助けて下さるどころか、税の取り立ては苛酷になるばかりです。すべての産物の収穫量が今までの半分になってすら、これまでと同等どころか、より多く取り立てようとなさるのは、私たちに死ねとおっしゃっているようなものです」
「確かに酷い話だ。それで、攫われた娘たちは一体、どうなった?」
 ヘジンは愛らしい面を曇らせ、かぶりを振った。
「皆、死にました」
「死んだ?」
 流石に予期せぬ応えであった。
「何故(ウエー)? 何故、娘たちが死ななければならないんだ?」
 その問いがどれほど馬鹿げたものであるかは凛花自身が誰よりよく知るはずだ。なのに、凛花は問わずにはいられなかった。それほど衝撃的であった。
 ヘジンの涙声が凛花の耳を射貫く。
「場所は違えども、いなくなった娘たちは皆、骸となって発見されました。県監さまはよく視察と称して村々を見回るのです。その際に気に入った娘を見つければ、先ほどの男たちに言いつけて屋敷に連れてこさせるのですわ。さんざん慰み者にした挙げ句、まるで使い捨てのボロ雑巾のように殺して棄てさせるのです」
「な、何と」
 凛花の唇が戦慄いた。
「まさか国王殿下より地方の行政と治安を預かった県監自らがそのように非道なふるまいに及ぶとは。まさに鬼畜にももとる所業ではないか」
「―仕方がありません」
 ややあって哀しげな声音が返ってきて、凛花は眼を見開いた。
「仕方ない? そなたたちはそれで良いのか!? 県監の思うが儘にされて、踏みにじられて良いのか?」
 大きくなった凛花の声に、数歩先を歩いていた吏房が振り返った。

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