山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第6章 最初の任地
飢饉や疫病で苦しみ喘ぐ民を救うどころか、かえって苛酷な搾取を行う県監は、あまつさえ、美しい村娘たちを攫って慰みものにした挙げ句、無惨にも殺している。
―そんな馬鹿なことが、非人道的なことが許されて良いはずがない。
しかも、その犯人は国王から地方行政を委ねられた地方官なのだ!!
地方民の平穏を守るべき県監が不当な搾取や悪政を行っているときこそ、暗行御使の出番となる。凛花は〝皇文龍(ファンムンロン)〟として、趙尚凞の悪辣さを糺すためにこの村に来たのだ。
何とかしなければとならない。凛花の心は焦りと使命感の狭間で揺れ動いた。
だが。県監の悪政を暴こうにも、まず、肝心の村人の話を聞き、彼等の仲間として受け入れて貰わねばならない。彼等が凛花を〝他所者〟として排除しようとする限り、凛花が彼等を救うことはできない。
村人の一員として迎えられ、彼等と同じ立場に立って彼等の苦悩を理解し得なければならないのだ。暗行御使は役人として悪辣な地方官を裁く前に、まず被害を被る民と同じ見地になり、彼等と共に不正を明らかにし、自分たちの住む村をよりよいものにしようという気持ちにならなければならない。
彼等の悩みや苦しみ、哀しみといったあらゆる感情を共にし、己れ自身のものとしなければ、その地をより良いものにすることなどできはしないのだ。
暗行御使に任ぜられた者それぞれによって抱く抱負や考え方は違うだろうが、少なくとも凛花はそのように理解している。
吏房やチルボク、ヘジンたちは早足で歩いてゆく。凛花はその後を無言でついていった。彼等は凛花を徹底的に無視することに決めたらしい。
凛花は彼等の態度には一向に頓着する風も見せなかった。途中でチルボクが何度か振り返り、呆れたように肩を竦めるのが見えたが、凛花の方もまた素知らぬ風を決め込んだ。
村が近づくにつれ、ほのかな香りが冬の風に乗って、漂ってくる。村の守り神である〝天下大将軍〟、〝地下女将軍〟と記された木彫りの像が見えてきた。
どうやら、そこから先が村に入るようだ。一歩脚を踏み入れるや、凛花は息を呑んだ。
山茶花が村の至るところに群生している。
―そんな馬鹿なことが、非人道的なことが許されて良いはずがない。
しかも、その犯人は国王から地方行政を委ねられた地方官なのだ!!
地方民の平穏を守るべき県監が不当な搾取や悪政を行っているときこそ、暗行御使の出番となる。凛花は〝皇文龍(ファンムンロン)〟として、趙尚凞の悪辣さを糺すためにこの村に来たのだ。
何とかしなければとならない。凛花の心は焦りと使命感の狭間で揺れ動いた。
だが。県監の悪政を暴こうにも、まず、肝心の村人の話を聞き、彼等の仲間として受け入れて貰わねばならない。彼等が凛花を〝他所者〟として排除しようとする限り、凛花が彼等を救うことはできない。
村人の一員として迎えられ、彼等と同じ立場に立って彼等の苦悩を理解し得なければならないのだ。暗行御使は役人として悪辣な地方官を裁く前に、まず被害を被る民と同じ見地になり、彼等と共に不正を明らかにし、自分たちの住む村をよりよいものにしようという気持ちにならなければならない。
彼等の悩みや苦しみ、哀しみといったあらゆる感情を共にし、己れ自身のものとしなければ、その地をより良いものにすることなどできはしないのだ。
暗行御使に任ぜられた者それぞれによって抱く抱負や考え方は違うだろうが、少なくとも凛花はそのように理解している。
吏房やチルボク、ヘジンたちは早足で歩いてゆく。凛花はその後を無言でついていった。彼等は凛花を徹底的に無視することに決めたらしい。
凛花は彼等の態度には一向に頓着する風も見せなかった。途中でチルボクが何度か振り返り、呆れたように肩を竦めるのが見えたが、凛花の方もまた素知らぬ風を決め込んだ。
村が近づくにつれ、ほのかな香りが冬の風に乗って、漂ってくる。村の守り神である〝天下大将軍〟、〝地下女将軍〟と記された木彫りの像が見えてきた。
どうやら、そこから先が村に入るようだ。一歩脚を踏み入れるや、凛花は息を呑んだ。
山茶花が村の至るところに群生している。