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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第6章 最初の任地

 事前に仕入れた予備知識では、この村はすべて併せても数十世帯の小さな農村だ。働き盛りの若者よりも、老人や子どもの方が多く、若い者たちは皆、より実入りの多い仕事を求めて都へと出てゆこうとする傾向がある。
 広い場所に小さな民家が点在しているといった感じの集落だ。一見すると、山茶花の林に村が抱(いだ)かれているようにも見えるかもしれない。この村が〝山茶花村〟と呼ばれる所以だ。
 凛花は吏房たちからさっさと離れ、村長(むらおさ)の住まいを目指した。ここに来る道すがらに通った他の村で、山茶花村に行ったときには村長を頼れと忠告を受けていたからだ。
―あの村の連中は昔っから、頑固つうか、他所者を体質的に受けつけねえ排他的なところがあるわな。この頃では、それが特に烈しくなってよ。何でかよくは知らねえが、俺が聞いたところでは、今は石頭の多い村人の中でも流石に村長がいちばん話の判る人だということだぜ。
 最後に止まった木賃宿の主人が教えてくれた。
 村長の住まいは村の外れにひっそりと建っていた。他の家の例に洩れず、家の周囲には細い小枝で簡素な低い柵が張り巡らされ、中央に出入りのための戸が取り付けられている。柵に囲まれた庭とも呼べないほどの狭い庭には山茶花が数本群れて植わっていて、薄紅色の花をたっぷりと付けていた。
 山茶花の傍で四匹の鶏がかしましく騒ぎ、腰の曲がった小柄な老人が鶏たちに餌をやっている。老人が餌を撒く度に、鶏たちは甲高い啼き声を上げていた。
「ごめん下さい。お爺さん(オルシン)」
 何度か呼んでいる中に、やっと老人が振り返った。
「いやあ、済まんのう。寄る年波で、すっかり耳が遠くなってしまってな」
 老人は腰を屈めたまま、ゆっくりと戸に近づいてくる。
「突然、お邪魔して申し訳ありません」
「いや、構わんよ。見たところ、旅人のようだが、お若いの、この村に立ち寄ったのは何か用事があったのかい?」
 いいえ、と、凛花は首を振る。

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