山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第6章 最初の任地
「私は都に住んでおりましたが、恥ずかしながら、不始末をしでかした挙げ句、両親に勘当され屋敷を出されました。今はゆく当てもなく、とりあえずは見聞を広げようと諸国を旅して回る最中です。この村に寄ったのは、昨夜泊まった宿屋で山茶花の見事な村があると教えられたからなのです」
人の好さそうな老人に嘘をつくことに少しだけ引け目を感じたが、村に居着くためにはまず、この老人に受け入れて貰う必要がある。
「そうか、そうか。そういうことなら、まぁ、お入り下さい」
老人は皺深い小さな顔に半ば埋もれた双眸をなおいっそう細めた。
「村に入った途端、眼を瞠りました。まるで山茶花にすっぽりと村全体が抱かれたような感じだと聞いていたのですが、目の当たりにして本当にそのとおりだと愕いたの何のって」
村のあちこちに群生する山茶花を見たときの気持ちは真実だ。凛花は微笑みながら言い、小さな戸を押して、庭に立った。
この小柄な老人には必要最低限の嘘しかつきたくない。凛花の言葉に、老人は更に顔を綻ばせる。
「何もない貧しい農村ですが、大昔から自慢できるものが二つだけありましてな」
喋り好きらしく、老人は矢継ぎ早に話しかけてくる。
「それは一体、何なのですか?」
興味を引かれて訊ねると、老人は自慢げに顎下にたくわえた見事な白髭を撫でた。
「一つめは玻璃湖、二つめは山茶花です」
「玻璃湖というと、村の奥まったところにあるという伝説の湖ですね」
村長は笑った。
「伝説か何かは知りませんが、儂ら村の者にとっては現実の湖、村に様々な恵みをもたらしてくれる湖ですよ。あの湖のお陰で、儂らは何とか細々とでも生きてゆけるんですからのう」
「失礼ですが、ご老人、この村の人たちは現在、かなり困窮していると聞きました。昔から、今のように生活が苦しかったのですか?」
「いや」
老爺の顔から見る間に笑みが消えた。
人の好さそうな老人に嘘をつくことに少しだけ引け目を感じたが、村に居着くためにはまず、この老人に受け入れて貰う必要がある。
「そうか、そうか。そういうことなら、まぁ、お入り下さい」
老人は皺深い小さな顔に半ば埋もれた双眸をなおいっそう細めた。
「村に入った途端、眼を瞠りました。まるで山茶花にすっぽりと村全体が抱かれたような感じだと聞いていたのですが、目の当たりにして本当にそのとおりだと愕いたの何のって」
村のあちこちに群生する山茶花を見たときの気持ちは真実だ。凛花は微笑みながら言い、小さな戸を押して、庭に立った。
この小柄な老人には必要最低限の嘘しかつきたくない。凛花の言葉に、老人は更に顔を綻ばせる。
「何もない貧しい農村ですが、大昔から自慢できるものが二つだけありましてな」
喋り好きらしく、老人は矢継ぎ早に話しかけてくる。
「それは一体、何なのですか?」
興味を引かれて訊ねると、老人は自慢げに顎下にたくわえた見事な白髭を撫でた。
「一つめは玻璃湖、二つめは山茶花です」
「玻璃湖というと、村の奥まったところにあるという伝説の湖ですね」
村長は笑った。
「伝説か何かは知りませんが、儂ら村の者にとっては現実の湖、村に様々な恵みをもたらしてくれる湖ですよ。あの湖のお陰で、儂らは何とか細々とでも生きてゆけるんですからのう」
「失礼ですが、ご老人、この村の人たちは現在、かなり困窮していると聞きました。昔から、今のように生活が苦しかったのですか?」
「いや」
老爺の顔から見る間に笑みが消えた。