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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第7章 花の褥(しとね)で眠る

「村長、村長」
 柴垣についた戸が開き、飛び込んできたのは見知らぬ若者だった。年の頃はチルボクと同じくらい。男前とはいえないが、鼻の上に散ったソバカスが愛敬を添えている。
 若者は〝何だ、お前は〟という眼で凛花を睨みつけてから、村長に口早に告げた。
「どうしたんじゃ。朝からえらく騒がしいのう」
「何を呑気なことを言ってるんだよ。たっ、大変なんだよ。ヘジンがヘジンがっ」
 聞き憶えのある名に、村長より先に凛花が反応した。
「何だって、ヘジンがどうしたっていうんだ?」
 凛花の剣幕に、若者が気圧されたように眼を見開いた。
「殺されちまったんだよッ」
 若者は再び村長に向かって言った。
「とにかく村長、早く来てよ」
「ご老人は私がお連れする。そなたはひと脚先に戻ってくれ」
 凛花の言葉に、若者は不本意ながらといった様子で従った。凛花は、杖を突いた村長の脇に寄り添い、老人のゆっくりとした歩みに合わせて歩いた。
 ヘジンが死んだ―? あの純朴そうな若者が嘘など口にするはずもないのに、凛花はまだ信じられず、まるで悪い夢を見ているかのようだ。
 だが、悪い夢はやがてすぐに現実となった。
 村長の家からさほど離れていない場所に、ヘジンは横たわっていた。その周囲に人だかりができているのは、哀しい報せを耳にした村人たちが集まってきたからだ。
 ヘジンの傍らにはチルボクが座り込み、愕然としていた。その界隈には民家らしい民家はなく、人気のない淋しい場所といえた。ここにも紅い山茶花が群れ固まって咲いている。
 ヘジンの周囲には、無数の紅い花片が散らばっていた。凛花は黙って物言わぬヘジンを見つめた。地面に散り敷いた花びらは、ヘジンが最後の抵抗を試みた何よりの証拠だ。
 恐らく、彼女は昨日―凛花と別れた後、執念深い県監に攫われたのだ。そして、弄ばれ、ここに連れてこられ殺された。その時、ヘジンは逃げようと最後の抵抗をしたに違いない。眼前にあった山茶花の枝を掴み、何とか繁みを抜けてその向こうへと逃げようとするヘジンの姿が凛花には見えるようだった。

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