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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第7章 花の褥(しとね)で眠る

 その想像を裏付けるかのように、ヘジンは白一色の下着姿で発見されていた。県監に犯されたのはほぼ疑いようもない。
 地面に座り込むチルボクの隣には、吏房の姿もあった。
 凛花は村長から離れ、吏房の許に行った。
「彼女はどうして攫われたんだ? あれからチルボクと一緒ではなかったのか?」
 吏房は凛花の顔を見ても、さして愕いた風はなかった。凛花がこの村にとどまるのをあらかじめ心得ていたかのようだ。
「そなたと別れた後、私たちはヘジンを家まで送り届けた。彼女が姿を消したのは、それから後のことだ」
 吏房の話によれば、夕刻になってヘジンは近隣の女友達の家まで出かけたのだという。その幼なじみはヘジンとは殊に親しく、近く隣村に嫁ぐことが決まっていた。ヘジンはその友達の家に縫い上がったばかりの婚礼衣装を見にいったというのだ。
「チルボクとヘジンもまもなく婚約する予定だった。ヘジンは友達の花嫁衣装を見て、自分もいずれチルボクと婚礼を挙げる日のことを夢見たかったのだろう」
「そんな」
 凛花は両脇に垂らした拳を握りしめた。
 友達の家で婚礼衣装を見て、ひとしきり感嘆の溜息を洩らしたヘジンは、陽が落ちて暗くなる頃合いに帰った。まさか、その途中で県監の手下に襲われるとは考えてもいなかったのだろう。
 ヘジンはまるで紅い花びらの褥(しとね)に横たわっているようだった。凛花は近くの樹から一輪の花を摘み取り、そっとヘジンの髪に飾った。
 乱れた髪を撫でつけ、白い頬にくっきりと残る打擲された跡に指で愛おしむように触れた。緩んでしどけなく開いた胸許には、烙印のように捺された紅い跡がかいま見える。それが強く口づけられた痕跡だと判らないほど凛花も初(うぶ)ではない。
 可哀想に、どれだけ抵抗したのか。思わぬ女の抵抗に苛立った県監に、頬を打たれたのだ。吹きすさぶ寒風にも構わず、凛花は自らのチョゴリを脱ぎ、ヘジンに掛けてやった。
 ヘジンも今はチルボクにだけは胸許に散った痕跡を見せたくはないだろう。
 怒りが、涙が込み上げてくる。
 ヘジンの顔はとても綺麗だった。まるで眠っているかのようで、呼べば、すぐに眼を開きそうで、死んでいるなんて思えなかった。

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