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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第7章 花の褥(しとね)で眠る

「県監の屋敷内に蔵がある。昼夜を問わず、蔵の周囲を用心棒たちが固めて守っているほどの用心ぶりだ。蔵の鍵は県監の寝所に置いてある宝石箱に隠しているが、何も危険を冒してまで鍵を奪う必要はない。証拠の品をわざわざ動かすのは、かえって愚というものだ」
 凛花の瞳が光った。
「では、そなたは、蔵の中に証拠の品が収められていると読んでいる。その中身を確認できれば良いのだな?」
「口にするのは容易いが、実際に行うのは至難の業だぞ。それだけ監視の徹底している場所にどうやって侵入する?」
 逆に問い返され、凛花は頷いた。
「確かに」
 吏房の声が低くなった。
「失敗は許されない。失敗すれば、かえって県監の警戒心を強め、用心させるだけだろう」
「慎重に行動する必要があるというわけか」
 凛花は思案げに応え、吏房を見た。
「ところで、一つだけ訊ねておきたいんだが、あなたは昨日、県監に逆らい、遠ざけられていると聞いた」
 吏房というのは地方官の役職の一つであり、県監などの地方役所の長の下で働く。いわば、県監の手脚となって動く重要な職務だ。役所では県監が長官なら、次官の地位に相当する。この男なら、解雇どころか逆に引き止めて起きたいほどの有能な部下だっただろう。
 吏房が薄く笑った。
「どうにも今の県監さまのやり方に我慢できなくなってしまったのだ。私は県監さまと違い、この村の近くの町で生まれ育った根っからの土着民なんだ。商人の倅として育ったが、多少、読み書きができると見込まれて地方両班の養子に迎えられた。もっとも、両班といっても、名前だけの中身は良民と変わらぬ最下級の家だがな」
 そういう経緯で、県監の許で働く地方役人になったのだと判る。

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