
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第7章 花の褥(しとね)で眠る
「前任の県監さまもけして良い官吏とはいえなかったが、それでも今の県監に比べれば、はるかにマシだ。ここまでの悪辣非道はしなかったからな。私は前任の県監さまの頃からずっと役所で働いていたゆえ、余計に村人たちの苦しみは他人事ではないように思えてならぬ。確かに、ここ二、三年で村の状態は酷くなった。それは何も山茶花村だけではない。県監さまが治めるこの地方一帯の村や町が皆、似たようなものだ。山茶花村は中でも県監の悪政の被害を最も深刻に受けている」
「今、あなたはまだ役所の郷吏(地方役人)の身分を持っているのか?」
凛花の問いに、吏房が自嘲気味に笑った。
「まさか。あの県監が目障りな私をいつまでも傍に置いておくと思うか? 県監の悪事に眼を瞑り、ただ迎合するだけの輩なぞ掃いて捨てるほどもいる。村の人が私を今も吏房と呼ぶのは、ただ今までの慣習のようなものだ」
「あなたは一体、どのように県監に逆らったのだ?」
「去年の終わり頃だったか。県監さまがまたしても役所に納める米や海産物の量を増やそうと言い出したんだ。流石に、私も黙ってはいられなかった。これ以上、取り立てを苛酷なものにすれば、村人は本当に疲弊し切ってしまう。ゆえに何とか思いとどまるように上訴したら、その場で首になった」
「なるほど」
凛花は頷きながら、吏房を見た。
「今更だが、私はあなたの名を知らない」
「孔(コン)印(イン)秀(ス)」
「それでは、インス、私はあなたを味方だと思って、良いんだな」
吏房―孔インスがゆっくりと口角を笑みの形に引き上げた。
「それは、こちらの科白だ。私の方こそ、そなたを信頼しても良いものかどうか迷っている」
「そなたの中で応えはとうに出ているのではないか?」
「なに?」
不思議そうなインスに、凛花はこちらも飛びきりの笑みで応える。
「村や役所の内情を私に教えてくれた時、あなたは既に私を信じるに足ると判断した。ゆえに、私にすべてを包み隠さず打ち明けてくれた、そうなのだろう?」
「今、あなたはまだ役所の郷吏(地方役人)の身分を持っているのか?」
凛花の問いに、吏房が自嘲気味に笑った。
「まさか。あの県監が目障りな私をいつまでも傍に置いておくと思うか? 県監の悪事に眼を瞑り、ただ迎合するだけの輩なぞ掃いて捨てるほどもいる。村の人が私を今も吏房と呼ぶのは、ただ今までの慣習のようなものだ」
「あなたは一体、どのように県監に逆らったのだ?」
「去年の終わり頃だったか。県監さまがまたしても役所に納める米や海産物の量を増やそうと言い出したんだ。流石に、私も黙ってはいられなかった。これ以上、取り立てを苛酷なものにすれば、村人は本当に疲弊し切ってしまう。ゆえに何とか思いとどまるように上訴したら、その場で首になった」
「なるほど」
凛花は頷きながら、吏房を見た。
「今更だが、私はあなたの名を知らない」
「孔(コン)印(イン)秀(ス)」
「それでは、インス、私はあなたを味方だと思って、良いんだな」
吏房―孔インスがゆっくりと口角を笑みの形に引き上げた。
「それは、こちらの科白だ。私の方こそ、そなたを信頼しても良いものかどうか迷っている」
「そなたの中で応えはとうに出ているのではないか?」
「なに?」
不思議そうなインスに、凛花はこちらも飛びきりの笑みで応える。
「村や役所の内情を私に教えてくれた時、あなたは既に私を信じるに足ると判断した。ゆえに、私にすべてを包み隠さず打ち明けてくれた、そうなのだろう?」
