
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第7章 花の褥(しとね)で眠る
自分では〝大丈夫だ〟と応えたつもりだった。なのに、次の瞬間、凛花は温かい腕に抱き取られていた。
「―!」
愕きのあまり、凛花は身を強ばらせた。
インスの深い声が耳許を掠める。こんなときなのに、凛花は全身が熱くなった。
「大丈夫だ」
恐らく、インス自身も自分の言葉が安易な慰めにすぎないと知りながらも凛花を落ち着かせるために口にしているのだ。
「あれだけの武術の心得がありながら、文承の身体は随分と華奢でやわらかなだな。私が少し力を込めれば、腕なんか折れてしまいそうだ」
インスは小首を傾げている。
―今、女だと知られてはまずい。
凛花は咄嗟にインスの厚い胸板を押しやっていた。
「女人ならともかく、それは男への褒め言葉にはならないぞ」
冗談に紛らわせようとすると、インスは真顔で見つめてくる。
凛花の全身に冷や汗が滲んだ。
普段から凛花は乳房の上に白布を幾重にも巻いている。その上から下着、更に上着を着けているため、まず胸のふくらみがそれと判るはずはないのだが、今のように直接、相手に抱きしめられる事態は正直、全く想定していなかった。
インスは明らかに疑念を抱いている。―そこまではゆかずとも、何らかの違和感を抱いたことは確かだ。
「済まない。だが、文承、そなたは男というより―」
言いかけたインスに、凛花が鋭い一喝を投げた。
「止してくれ! あなたは私を侮辱する気か?」
いや、と、インスは首を振った。
「文承が思った以上に細かったから、つい」
「それよりも、インス。このままで良いのか? もう昼だ。このままじっと手をこまねいて待つより、チルボクを皆で探した方が良いと思うのだ」
凛花は急いで話題を変えた。
「確かに、文承の言うとおりかもしれないな。私も同じことを考えていたところだ」
凛花とインスが顔を見合わせた時、手前から息せききって走ってくる若者の姿があった。
あれは、ヘジンの訃報を知らせにきた若者に間違いない。刹那、凛花の心が絶望で塗りつぶされ、一縷の希望の光がかき消えた。
「―!」
愕きのあまり、凛花は身を強ばらせた。
インスの深い声が耳許を掠める。こんなときなのに、凛花は全身が熱くなった。
「大丈夫だ」
恐らく、インス自身も自分の言葉が安易な慰めにすぎないと知りながらも凛花を落ち着かせるために口にしているのだ。
「あれだけの武術の心得がありながら、文承の身体は随分と華奢でやわらかなだな。私が少し力を込めれば、腕なんか折れてしまいそうだ」
インスは小首を傾げている。
―今、女だと知られてはまずい。
凛花は咄嗟にインスの厚い胸板を押しやっていた。
「女人ならともかく、それは男への褒め言葉にはならないぞ」
冗談に紛らわせようとすると、インスは真顔で見つめてくる。
凛花の全身に冷や汗が滲んだ。
普段から凛花は乳房の上に白布を幾重にも巻いている。その上から下着、更に上着を着けているため、まず胸のふくらみがそれと判るはずはないのだが、今のように直接、相手に抱きしめられる事態は正直、全く想定していなかった。
インスは明らかに疑念を抱いている。―そこまではゆかずとも、何らかの違和感を抱いたことは確かだ。
「済まない。だが、文承、そなたは男というより―」
言いかけたインスに、凛花が鋭い一喝を投げた。
「止してくれ! あなたは私を侮辱する気か?」
いや、と、インスは首を振った。
「文承が思った以上に細かったから、つい」
「それよりも、インス。このままで良いのか? もう昼だ。このままじっと手をこまねいて待つより、チルボクを皆で探した方が良いと思うのだ」
凛花は急いで話題を変えた。
「確かに、文承の言うとおりかもしれないな。私も同じことを考えていたところだ」
凛花とインスが顔を見合わせた時、手前から息せききって走ってくる若者の姿があった。
あれは、ヘジンの訃報を知らせにきた若者に間違いない。刹那、凛花の心が絶望で塗りつぶされ、一縷の希望の光がかき消えた。
