山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第7章 花の褥(しとね)で眠る
インスの骸が発見されたのは、村の入り口―守り神の建つ辺りであった。
村の青年に案内され、凛花とインスはその場所へと急いだ。後からはチルボクの両親、妹も続いた。
変わり果てた息子の姿を見た母親は号泣し、父親は絶句した。
インスはしゃがみ込んで、チルボクの身体を丹念に調べていたかと思うと、立ち上がった。
「これは酷(ひど)いな」
両親には聞こえないように凛花を少し離れた場所まで引っ張ってゆく。
「見たか?」
ああ、と、凛花は力ない声で頷いた。
「後ろからいきなり、ばっさりとやられたに違いない。背中を上から下へ一直線だ。あれはかなりの遣い手だな。下手人は―」
「言われずとも判る。県監の手下だろう」
二人は低めた声で囁き合った。
「ヘジンを攫おうとしていた時、私たちが相手にした男たちはどれもたいしたことはなかった。しかし、首領らしい男だけは違ったと思う。あれは、そこそこの剣の腕を持っていた。もちろん、正式に会得したものではなく、あくまでも我流で身につけたものだろうがな」
凛花があのときの状況を思い出しながら言うと、インスも頷いた。
「流石だな。たったあれだけの手合わせで、そこまで相手の力量を読めるとは」
「別に褒めて貰いたくて、言ったわけではない」
凛花は呟き、がっくりと肩を落とした。
「私は取り返しのつかぬことをしでかしてしまった」
インスがハッとした表情で凛花を見た。
「私が余計なことを言ったばかりに、チルボクは生命を落とした」
凛花の脳裡に忘れようとしても今もなお忘れ得ぬ出来事が甦る。
自分が右議政の息子朴直(パクジク)善(ソン)の計略に乗り、まんまと直善の書いた手紙におびき出されたがために、恋人文龍はあたら生命を失った。何か起こったときは、自分が文龍を守るのだ―、そう思って勇んで現場に出向いた凛花だったが、現実は真逆だった。
村の青年に案内され、凛花とインスはその場所へと急いだ。後からはチルボクの両親、妹も続いた。
変わり果てた息子の姿を見た母親は号泣し、父親は絶句した。
インスはしゃがみ込んで、チルボクの身体を丹念に調べていたかと思うと、立ち上がった。
「これは酷(ひど)いな」
両親には聞こえないように凛花を少し離れた場所まで引っ張ってゆく。
「見たか?」
ああ、と、凛花は力ない声で頷いた。
「後ろからいきなり、ばっさりとやられたに違いない。背中を上から下へ一直線だ。あれはかなりの遣い手だな。下手人は―」
「言われずとも判る。県監の手下だろう」
二人は低めた声で囁き合った。
「ヘジンを攫おうとしていた時、私たちが相手にした男たちはどれもたいしたことはなかった。しかし、首領らしい男だけは違ったと思う。あれは、そこそこの剣の腕を持っていた。もちろん、正式に会得したものではなく、あくまでも我流で身につけたものだろうがな」
凛花があのときの状況を思い出しながら言うと、インスも頷いた。
「流石だな。たったあれだけの手合わせで、そこまで相手の力量を読めるとは」
「別に褒めて貰いたくて、言ったわけではない」
凛花は呟き、がっくりと肩を落とした。
「私は取り返しのつかぬことをしでかしてしまった」
インスがハッとした表情で凛花を見た。
「私が余計なことを言ったばかりに、チルボクは生命を落とした」
凛花の脳裡に忘れようとしても今もなお忘れ得ぬ出来事が甦る。
自分が右議政の息子朴直(パクジク)善(ソン)の計略に乗り、まんまと直善の書いた手紙におびき出されたがために、恋人文龍はあたら生命を失った。何か起こったときは、自分が文龍を守るのだ―、そう思って勇んで現場に出向いた凛花だったが、現実は真逆だった。