山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第7章 花の褥(しとね)で眠る
凛花は文龍の手助けどころか、かえって足手纏いにしかならなかった。凛花という恋人を質に取られた文龍は彼が持つ剣技を奮うことはできず、直善に囚われている凛花に注意を逸らされている隙に、直善の放った剣に当たった。
その剣の切っ先には猛毒が塗ってあり、文龍は二十四歳の生命を散らしたのだ。凛花があの時、浅はかにも直善の仕掛けた罠にはまらなければ、文龍は今も生きていたはずだ。
そして、凛花と文龍は今頃はとっくに婚礼を挙げ、晴れて夫婦となっていただろう。
あの一瞬、文龍が
―凛花ッ。
と叫んだときの光景はいまだに瞼に灼きいて消えることはない。
文龍の驚愕した顔、凛花の傍を掠めて飛んでいった短剣。
まさか、短剣が肩先を掠めただけのかすり傷が生命取りになるなど文龍も凛花も考えだにしなかった。
文龍の死後、凛花は幾度、己れの愚かさを呪ったことだろう。
凛花は擬然とその場に立ち尽くした。
―文龍さまのときと同じだ。私が、この私が余計なことをしたばかりに、またひと一人の生命が失われてしまった。
凛花は後悔の念に苛まれながら、チルボクの骸を眺め下ろした。
「そなたのせいではない」
インスが静かに言った。
「チルボクには、私も無謀な真似はするなと言った。だが、ヘジンを失って、彼も正常な判断ができなくなっていたんだろう。県監を捕まえるために、不正を暴こうと心が逸っていたのだ。だから、たった一人で県監の屋敷に忍び込むなど、無茶をした。文承が言ったことが原因ではない」
「気休めは止してくれ」
凛花は厭々をするように首を振った。
「何故、県監の好き放題にさせておくんだ、闘いもしない中から諦めるな―、私は明らかに余計な口出しをした。チルボクはあのひと言で、県監の屋敷に忍び込んだのだ。言い逃れはできないよ。私が彼を死なせたのも同然だ」
凛花はインスを振り切るようにその場を後にした。
その剣の切っ先には猛毒が塗ってあり、文龍は二十四歳の生命を散らしたのだ。凛花があの時、浅はかにも直善の仕掛けた罠にはまらなければ、文龍は今も生きていたはずだ。
そして、凛花と文龍は今頃はとっくに婚礼を挙げ、晴れて夫婦となっていただろう。
あの一瞬、文龍が
―凛花ッ。
と叫んだときの光景はいまだに瞼に灼きいて消えることはない。
文龍の驚愕した顔、凛花の傍を掠めて飛んでいった短剣。
まさか、短剣が肩先を掠めただけのかすり傷が生命取りになるなど文龍も凛花も考えだにしなかった。
文龍の死後、凛花は幾度、己れの愚かさを呪ったことだろう。
凛花は擬然とその場に立ち尽くした。
―文龍さまのときと同じだ。私が、この私が余計なことをしたばかりに、またひと一人の生命が失われてしまった。
凛花は後悔の念に苛まれながら、チルボクの骸を眺め下ろした。
「そなたのせいではない」
インスが静かに言った。
「チルボクには、私も無謀な真似はするなと言った。だが、ヘジンを失って、彼も正常な判断ができなくなっていたんだろう。県監を捕まえるために、不正を暴こうと心が逸っていたのだ。だから、たった一人で県監の屋敷に忍び込むなど、無茶をした。文承が言ったことが原因ではない」
「気休めは止してくれ」
凛花は厭々をするように首を振った。
「何故、県監の好き放題にさせておくんだ、闘いもしない中から諦めるな―、私は明らかに余計な口出しをした。チルボクはあのひと言で、県監の屋敷に忍び込んだのだ。言い逃れはできないよ。私が彼を死なせたのも同然だ」
凛花はインスを振り切るようにその場を後にした。