山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第7章 花の褥(しとね)で眠る
「私は、いつもこうだ。お節介なんか止めておけば良いのに、その人のために良かれと思ってやったことがすべて裏目に出る」
インスが静かな声音で言った。
「その人は文承にとっては、かけがえのない存在だったんだな」
「ああ、彼は私のすべてだったよ。彼がいたからこそ私は生きていられた。彼を失った時、幾度、後を追おうかと思った。だが、彼を死なせたのは自分だと考えた時、容易くは死ねないと思い直したんだ。彼の果たせなかった夢を、その意思を受け継ぐことが、彼を死に至らしめた私のせめてもの贖罪だと、―いや、彼を心から好きだったからこそ、彼に代わって、その夢を実現させたいと思った」
文龍が夢見ていたこと。
暗行御使として地方の民の生活をつぶさに見、彼らのために自分のできる精一杯のことを為したかったと文龍は最後に語ったのだ。
「何だか少し妬けるな」
インスの思いがけない科白に、今度は凛花が愕く番であった。
「文承の話を聞いていると、その亡くなった人がまるでそなたの恋人のように思えてならない」
しまった―、凛花は狼狽えた。
「そんなはずがないだろう。彼は男で、私も正真正銘の男だ。彼は大切な友人だったんだ」
「友人、か」
インスは慌てる凛花を複雑そうな表情で見つめた。
凛花は我が身の迂闊さにまたも自己嫌悪に陥っていた。
どうして、この男が相手だと喋り過ぎてしまうのか。義(ウィ)禁(グム)府(フ)やその任務については流石に触れなかったけれど、あの事件の片鱗を語ってしまった。文龍の死を話せば、必然的に国家の機密事項にも抵触することになるのは判り切っているのに。
やはり、自分は大馬鹿だ。こんなにも不用意に情に流されて行動してしまうようでは、御使としての任務を到底、遂行はできないだろう。〝皇文龍〟を名乗る資格などありはしない。
想いに沈む凛花を見て、インスは溜息をついた。
「文承、誤解しないで聞いて貰いたいのだが、そなたは下級両班の息子などではないだろう」
「―!」
凛花が弾かれたように顔を上げ、インスを睨んだ。
インスが静かな声音で言った。
「その人は文承にとっては、かけがえのない存在だったんだな」
「ああ、彼は私のすべてだったよ。彼がいたからこそ私は生きていられた。彼を失った時、幾度、後を追おうかと思った。だが、彼を死なせたのは自分だと考えた時、容易くは死ねないと思い直したんだ。彼の果たせなかった夢を、その意思を受け継ぐことが、彼を死に至らしめた私のせめてもの贖罪だと、―いや、彼を心から好きだったからこそ、彼に代わって、その夢を実現させたいと思った」
文龍が夢見ていたこと。
暗行御使として地方の民の生活をつぶさに見、彼らのために自分のできる精一杯のことを為したかったと文龍は最後に語ったのだ。
「何だか少し妬けるな」
インスの思いがけない科白に、今度は凛花が愕く番であった。
「文承の話を聞いていると、その亡くなった人がまるでそなたの恋人のように思えてならない」
しまった―、凛花は狼狽えた。
「そんなはずがないだろう。彼は男で、私も正真正銘の男だ。彼は大切な友人だったんだ」
「友人、か」
インスは慌てる凛花を複雑そうな表情で見つめた。
凛花は我が身の迂闊さにまたも自己嫌悪に陥っていた。
どうして、この男が相手だと喋り過ぎてしまうのか。義(ウィ)禁(グム)府(フ)やその任務については流石に触れなかったけれど、あの事件の片鱗を語ってしまった。文龍の死を話せば、必然的に国家の機密事項にも抵触することになるのは判り切っているのに。
やはり、自分は大馬鹿だ。こんなにも不用意に情に流されて行動してしまうようでは、御使としての任務を到底、遂行はできないだろう。〝皇文龍〟を名乗る資格などありはしない。
想いに沈む凛花を見て、インスは溜息をついた。
「文承、誤解しないで聞いて貰いたいのだが、そなたは下級両班の息子などではないだろう」
「―!」
凛花が弾かれたように顔を上げ、インスを睨んだ。