山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第7章 花の褥(しとね)で眠る
インスが真摯な視線を凛花に向ける。
「いや、そんな怖い顔をしないでくれ。私は何もそなたの正体を暴こうとか、そんなことを目論んでいるわけではない。ただ、事情は判らないが、身分を偽ってまで何かをなさそうしているそなたが痛々しくてならないのだ」
「インス、そなたと話すことはもうないようだ」
これ以上、この男と拘わっては危険だ。インスはあまりに鋭すぎる。既に彼は、凛花が触れ込みどおりの人間ではないと見抜き、そのことに確信を持っている。この男と関わり合っていれば、正体がバレるのは時間の問題だろう。
凛花が踵を返そうとしたその時、インスが咄嗟に凛花の腕を掴んだ。
「待て」
「放せ」
凛花が幾ら腕をふりほどこうとしても、インスは放そうとしない。
凛花はキッとインスをきつい眼で見た。
インスが何ものかに急かされるように言う。
「私にはまだ話したいことがある」
「生憎と私にはもうない」
我ながら何とも無愛想な言い方だではあったが、この場合、致し方ない。
「チルボクのことは、どうするつもりだ?」
凛花は素っ気なく応えた。
「インスには関係ない」
「いや、ある」
インスは声を潜めた。
「そなたは県監の屋敷に忍び込むつもりだろう?」
そこまで自分の心を読まれている―。
その事実に凛花は烈しく動揺したものの、辛うじて平静を装った。
「何のことだか。そなたの話は一向に判らぬ」
凛花は顔を背けたまま、早口で言った。
チルボクの死を知った時、凛花の中ではある一つの決意が固まった。むろん、それは暗行御使としての当然の任務ではあったが、既に凛花個人にとっても、是が非でも果たさねばならない宿願ともなっていた。
チルボクの無惨な姿を眺めながら、到底このままにしてはおけぬと強く思ったのだ。それは暗行御使としての使命感というよりは、むしろ大切な仲間を奪った県監への復讐、敵討ちという感が強かった。
「いや、そんな怖い顔をしないでくれ。私は何もそなたの正体を暴こうとか、そんなことを目論んでいるわけではない。ただ、事情は判らないが、身分を偽ってまで何かをなさそうしているそなたが痛々しくてならないのだ」
「インス、そなたと話すことはもうないようだ」
これ以上、この男と拘わっては危険だ。インスはあまりに鋭すぎる。既に彼は、凛花が触れ込みどおりの人間ではないと見抜き、そのことに確信を持っている。この男と関わり合っていれば、正体がバレるのは時間の問題だろう。
凛花が踵を返そうとしたその時、インスが咄嗟に凛花の腕を掴んだ。
「待て」
「放せ」
凛花が幾ら腕をふりほどこうとしても、インスは放そうとしない。
凛花はキッとインスをきつい眼で見た。
インスが何ものかに急かされるように言う。
「私にはまだ話したいことがある」
「生憎と私にはもうない」
我ながら何とも無愛想な言い方だではあったが、この場合、致し方ない。
「チルボクのことは、どうするつもりだ?」
凛花は素っ気なく応えた。
「インスには関係ない」
「いや、ある」
インスは声を潜めた。
「そなたは県監の屋敷に忍び込むつもりだろう?」
そこまで自分の心を読まれている―。
その事実に凛花は烈しく動揺したものの、辛うじて平静を装った。
「何のことだか。そなたの話は一向に判らぬ」
凛花は顔を背けたまま、早口で言った。
チルボクの死を知った時、凛花の中ではある一つの決意が固まった。むろん、それは暗行御使としての当然の任務ではあったが、既に凛花個人にとっても、是が非でも果たさねばならない宿願ともなっていた。
チルボクの無惨な姿を眺めながら、到底このままにしてはおけぬと強く思ったのだ。それは暗行御使としての使命感というよりは、むしろ大切な仲間を奪った県監への復讐、敵討ちという感が強かった。