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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第7章 花の褥(しとね)で眠る

「文承、私にまで嘘をつき続けるのは止めてくれないか。先刻も申したように、私はそなたの正体を知ろうと思ってはいない。そのために、そなたに近づこうとしているわけではないんだ。ただ、そなたがたった一人で県監に挑もうとしているのが判っていながら、文承だけを行かせるわけにはゆかないと考えているのだよ」
 凛花は依然としてインスの顔を見ようとはしなかった。
「だが、よく考えてみて欲しい。文承、これはチルボクも言ったように、私たちの問題なんだ。この村に暮らす村人、役人であった私たちの問題だ。なのに、そなた一人に難題を押しつけて、私だけが安全な場所で高みの見物をしているわけにはいかないのは判るだろう? そなたがもし県監と闘うつもりなら、私にも協力させてくれ」
 インスの言葉に嘘はない。その底に流れる真心は凛花にも伝わった。彼の想いは真実であり、一片の偽りも含まれてはいない。
 村役人としての使命感に駆られているというのも事実だろうし、一人で悪辣な県監に立ち向かおうとしている凛花を放っておけないという優しさもまた本物だろう。
 むしろ、身分を偽り、女であることを隠し、インスを騙しているのは自分の方だ。たとえ、それが御使としては仕方のないことであったとしても。
 凛花はかすかな罪悪感に駆られながら、頷いた。
「そなたが力を貸してくれるなら、百人力だ。私より、そなたの方がよほど県監については詳しいからな。よろしく頼む」
「判った。私にできる限りのことはするよ」
 凛花とインスは改めて顔を見合わせ、かすかに頷き合った。
「だが、一つだけ頼みがある」
 凛花はインスに真摯な眼を向けた。凛花の表情を正確に読み取り、インスは言った。
「何だ、何なりと言ってくれ」
「絶対に死ぬな」
 凛花のひと言に、インスが眼を見開いた。
 凛花はうつむき、また、顔を上げた。
「私はもう、大切な人が死ぬのは見たくない。ヘジン、チルボク、その上、そなたまで巻き込むことになってしまったら―」
「巻き込まれるのではない、これは私たちの問題でもあると言ったはずだ」

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