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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第7章 花の褥(しとね)で眠る

「陰険、冷血、他人をけして寄せ付けない可愛げのない男」
 インスが舌打ちを聞かせる。
「よくもまあ、人のことを好き放題に言ってくれたものだな」
「さんざん私をからかった罰だ」
「文承、私は何もそなたをからかった憶えはないぞ。私はそなたに友人と認められて、心底嬉しいんだ!」
「もう良いッ。やはり、そなたと組むことについては、もう少し考えさせて貰う」
 凛花が頬を膨らませて、さっさと一人で家に戻ろうとする。その後ろから、インスの愉快そうな笑い声が追いかけてきた。
 気がつけば、いつしか凛花の強ばった頬も緩んでいる。ヘジンやチルボクの死という苛酷な事実を経て哀しみに沈んでいた心が久方ぶりに少しだけ軽くなったような気がした。
 空は既に闇の色に覆い尽くされ、庭の山茶花が余韻にも鮮やかな薄紅色の花を際立たせていた。

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