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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

 しかし、役所を訪れた者で生きて帰ってきた者は一人としていなかった。彼らは皆、〝反逆罪〟、つまり県監にゆえなく楯突いたとして拷問の上、処刑されるのだ。そんなことが続き、県監がどれほど苛酷な取り立てを行おうと、誰も嘆願しにゆく者はいなくなった。
 誰でも生命は惜しいし、死にたくない。民が口をつぐみ、無抵抗なのを良いことに、県監の傍若無人ぶりはますます加速する一方だ。
 県監の悪行はそれだけにとどまらず、近隣の町や村を視察と称して見回り、意に適った美しい娘がいれば、手下たちにひそかに攫わせ屋敷に連れてこさせた。娘たちは翌日、或いは数日後に、死体で発見される―。いずれの娘達も陵辱された痕跡がはっきりと残っていた。
 それが県監の仕業だと知りながら、はっきりとした証拠があるわけでもない。慰み者にされた挙げ句、無惨に殺された娘たちの親は泣き寝入りするしかなかった。
 チルボクが非業な最期を遂げてから数日後、凛花とインスは県監の屋敷に忍び込んだ。
 折しも今宵は満月が近く、月が明るい。忍び込むにはもってこいの夜ではあったけれど、その分、自分たちの姿も相手に見つかりやすいという危険もある。
 昼間はひっきりなしに庭を行き来する男たちの姿が見えたが、流石に今は人気はなかった。
 夜間は一刻毎に三人組の男が庭を巡回することは、事前に調査済みだ。つい先刻、巡回があったばかりだから、しばらくは安心していて良い。
 二人は巡回を終えた用心棒たちがいなくなるのを見届けた後、易々と塀を乗り越えて潜入した。
 それでも見つからないように気配や脚音を殺し、細心の注意を払いながら庭を横切って最奥の蔵を目指す。
 蔵の前では二人の男が大きな図体で引っ繰り返って大鼾をかいていた。予め凛花が県監の屋敷内の女中に近づき、今夜、蔵の見張りに立つ男たちに眠り薬入りの酒を呑ませるように頼んだのだ。むろん、女中はその酒に睡眠薬が混入していることを知らない。
「男たちの方は大丈夫か?」
 耳許で囁かれ、凛花は頷いた。
「薬がよく効いているようだ。どう見ても、朝まではぐっすり夢の中だろう」
 インスが男の片割れを脚でつつく。用心棒はピクリとも動かない。

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