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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

「よし、これならいけそうだな」
 インスは余裕の笑みを見せた。
 二人共に闇に溶け込むような黒一色の装束を纏っている。頭には同色の布を巻き、背には長刀を背負っていた。
 蔵の中の財物を持ち出すことはしないと、これも前もって二人で相談して決めている。仮に持ち出したとしても、県監に〝そのようなものは一切知らぬ。儂を陥れるため、そなたらが用意したのであろう〟とシラを切られれば、そこまでだ。
 かえって、財物の一部がなくなっていることを知れば、県監は警戒を強め、財物をどこか別の場所に移そうとするかもしれない。
 今夜は蔵の中に確かに財物が保管されているのを確認するだけで良いのだ。
 蔵には窓らしい窓はなく、たった一つ正面の上方に明かり取りの窓が切り取られているだけだ。上背のあるインスは少し伸び上がるだけで中が見渡せる。
 しばらく中を覗き込んでいたインスが大きな息を吐いた。
「どうだ、あったか?」
 凛花のもどかしげな問いに、インスは黙って四つん這いになった。自分の上に乗って中を覗けということなのだろう。凛花は少し躊躇った末、思い切ってインスの上に乗った。
 女性にしても小柄な凛花はインスを踏み台にしても、まだ背伸びしなければならなかった。それでも、何とか中を見ることはできる。
 蔵そのものは小さな建物だが、中を見渡した凛花は息を呑んだ。
 何とまあ、よくぞこれだけの財物、いや宝物といっても差し支えなかろう―を集めたものだ。呆れるよりも先に感心した。凛花の眼にまず映じたのは様々な海の恵み、海産物だ。
 恐らく玻璃湖で採れたものに相違ない。更に、やはり玻璃湖で採れるという白蝶貝や真珠の細工品、装飾品の入った箱が雑多に積み上げられている。その傍らには米の入った大きな袋がこれもまた乱雑に山積みされていた。
 凛花は首を振りながら、インスの上から降りた。
「全く、これは凄いな」
 凛花の囁きに、インスも唸った。
「よくもよくぞというところだ」
「どこまで欲の皮の突っ張った野郎なんだ」
 顔を露骨に顰めたインスの顔には苦笑が滲んでいる。凛花は表情を引きしめた。

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