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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

「笑っている場合ではない。あれらは皆、県監が民たちから搾り取った、言わば民たちの血と汗と涙だぞ」
「そのようなことは判っている。だからこそ、私たちは今、ここにいるのだろう」
 インスもまた真顔になって応じた。
「とにかく見るべきものは見た。ここに長居は無用だ」
 インスが声を低めて言うのに、凛花も即座に頷いた。
「だな」
 インスがもう一度、耳許で囁く。
「良いか、走るぞ」
 まずインスが走り出し、その後を凛花が寸分遅れず追った。
 かなり走ったところで、彼方から声が上がった。
「賊だ、賊が侵入したぞ」
「県監さまにお知らせしろ、直ちに賊を捕らえるのだ!」
 興奮した男たちの声が声高に響き渡り、凛花とインスは互いに顔を見合わせ、眼と眼で頷き合った。
 男たちが捧げ持つ松明の焔が影の部分を照らし、地面に焔が揺れる。
 県監邸の庭にも山茶花が至る所に植わっている。凛花たちはその繁みを利用しながら、巧みに逃げ切った。こういうときには、闇と同化できる黒装束は便利であり、身を守る盾となってくれる。
 男たちの声がかなり近づいてきたと思う頃、二人は何とか屋敷を囲む長い塀の前まで辿り着いた。
 最初にインスが飛び上がり、塀の真上に乗る。更にインスが手を伸ばし、凛花はその助けを得て塀の上に引き上げられた。インスは実に軽々とした身のこなしで着地し、凛花もそれに続く。
「おい、こっちはどうだ?」
「いや、いないようだ」
「畜生、逃げ足の速い奴らだぜ」
「よし、あっちを探してみよう。まだ邸内にいるはずだ。追いつめてゆけば、所詮は袋の鼠さ」
 声が遠ざかってゆく。
 インスと凛花はまたも顔を見合わせると、走り出し、やがて、その姿は深い漆黒の闇の中へと吸い込まれ見えなくなった。

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