テキストサイズ

山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

 二日後の昼下がり。凛花とインスは村でただ一軒の酒場にいた。酒場といっても、食堂を多少マシにした程度のもので、内実は食事と一緒に酒も出すといったところである。
 それでも、苛酷な労働に耐える村の男たちにとっては時に情報交換の社交の場となり、時に日々の憂さを忘れるための憩いの場所となる。
 多少金をはずめば、座敷にも上がれるが、二人は外にしつらえられた席に座っていた。大きな台の上に筵が敷かれ、客は思い思いの場所に陣取るのだ。
 一月も下旬に差しかかろうとしており、その日の寒さは殊に厳しいものがあった。今朝は小雪がちらほらと鉛色の空から舞っている。
「そなたの色仕掛けは見事なものだ。まさに大成功といったところだな」
 インスにからかうように言われ、凛花は憮然とした。
「あまり褒められているような気がしないんだが」
「いやいや、心底から感心している」
 インスが銚子を持ち、凛花の盃に注ぐ。
 凛花は少し顔を背けるようにして、盃に形式的に口を当てた。酒はあまり得意ではない。
 相手の方を向いて盃を干さないのは、年長者、高位の者への礼儀である。
「いつか、そなたに言ったことを憶えているか?」
 唐突に言われ、凛花は眼を瞠った。
「何のことだ? いきなり言われても、私には見当がつかない」
「この前、村長の家を訪ねたときのことだ。身分を偽っているのではないかと言った」
 このときだけインスは心もち声を低めた。
「ああ、確かにそんなことを言ったな」
 あれは確かチルボクの亡骸が見つかった日だ。何故、今更、酒の席で哀しい出来事を蒸し返すのかと凛花は少し憤慨した。
「それが、どうかしたか?」
 だが、インスの思惑は全く別のところにあったようだ。もっとも、それもまた凛花にとっては傍迷惑な話題であるには変わりなかったけれど。
「あの日、私は指摘したはずだ。そなたは大勢の女人を泣かせ、放蕩の限りを尽くして親に勘当されたと自分で言っているが、それは嘘だと」
「ああ」
 凛花の声がまた小さくなった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ