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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

 インスは笑いながら言った。
「あれは、前言撤回だな。今は、満更、都で大勢の女と浮き名を流していたというのも嘘ではないのかもと思うようになったぞ」
「何が言いたいんだ? 持って回った言い方は止せ、そなたらしくもない」
「おお、怖。そんな顔で睨むなよ。私がそう思ったとしても、仕方ないではないか」
 含むところがある視線を向けられ、凛花はフンとそっぽを向いた。
「そなたの申したいのは、県監の屋敷の女中のことだろう」
 インスが我が意を得たりとばかりに頷いた。
「ご名答。あの娘、そなたに随分と熱を上げていたようではないか。後学のためにも教えてくれ。一体全体、どんな手管を使えば、女をあそこまで骨抜きにできるんだ?」
 凛花は呆れたように肩を竦め、インスが差し出した盃に酒を注いでやる。
「手管とか、骨抜きとか、人聞きの悪いことは言うなよ。私の方こそ、そなたほど見かけと中身の違う人間は見たことがない。陰険、堅物で真面目そうに見えて、実は相当なむっつり助平だったのだな」
 ブッと、インスが口から吹き出した。
「汚いなあ、本当にもう」
 凛花がわざとらしく顔を顰め、懐から手巾を取り出し、飛び散った酒を拭く。
「だって、お前。むっつり助平なんて言われたのは流石に俺も生まれて初めてだから」
 凛花は思いきり盛大な溜息をついた。
「俺、お前ねぇ。もう本当に本当に地というか、そのまんまが出てるよね。けど、インス。私はそなたに〝お前〟呼ばわりされる憶えはないんだけど?」
「まあ、良いではないか。俺とお前の間柄だ、固いことは言いっこなし」
 凛花はむくれたように言った。
「あれは必要悪というか、仕方のない状況だったはずだぞ。私はむしろ、やりたくもないことをやらされた犠牲者の方だったんだから、同情して貰いたいくらいさ」
 そう、話は少し前に遡るが、県監の屋敷に侵入するに当たり、凛花は女中と親しくなった。蔵の見張りに立つ男たちに酒を呑ませるためには、是非とも屋敷内に協力者が必要だったからだ。

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