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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

 今の凛花は男にしては小柄だが、それでも眉目麗しい美少年にしか見えない。しかも都から来た両班の若さまともなれば、田舎娘には神々しいほど魅力的に見えたらしい。
 道行く途中に声をかけられた若い女中はあっさりと陥落し、凛花に心を許した。凛花は幾度か彼女と示し合わせて逢い、心にもない(娘には申し訳ないが)甘い科白を囁き、手の一つも握らなければならなかった。極めつけに、忍び込む前日、娘にそっと酒瓶を手渡し、内緒の頼み事をしたのである。
 最初は少し渋った娘だが、凛花が娘の両手をひしと握りしめ、
―このようなことを頼めるのは、私にはそなたしかいないのだ。勇気と賢さを合わせ持つそなただからこそ、頼めることだ。
 と、相手の眼を見つめながら熱っぽく囁いたら、むしろ嬉しげというか誇らしげに頬を紅潮させて引き受けてくれた。
「俺も物陰から見ていたぞ。あの娘、ただでさえ紅い頬を真っ赤にしてただろう。お前も罪な男だな。お前を見つめる娘の眼は完全にイカレてたぞ?」
「仕方なかったんだよ。手を握られたり、あちこちべたべた触られたり、大変だったんだ」
 凛花が不満げに口を尖らせると、インスは呵々大笑した。
「一途で良いではないか。美人ではないが、愛敬のある可愛い娘だった。お前は無粋というか、生真面目だな。こういうときは、役得だと思って愉しめば良いのに」
「そんなに言うのなら、インスが私の代わりにあの娘に近づけば良かったではないか」
「いや、俺はもうどこに行っても、〝陰険で堅物な吏房〟として知られているからな。そんな俺が突然、男の色香を振りまく女たらしに豹変してみろ、それこそ、県監にどんな魂胆があるのかと勘繰られる羽目になる。その点、お前なら、どうせ都から来た女タラシの坊ちゃんで知られてるから、不自然さはないだろうと思ったんだよ」
 意趣返しのつもりなのか、凛花が指摘した形容そのままを使っている。
 凛花はもう怒る気力も失せた。
「そなた、完全に他人事だと思ってるだろう」
 凛花が気のない調子で言うと、インスは含み笑いを洩らした。
「まあ、な。だが、文承が上手くやってくれたお陰で、成功したわけだからな。それはともかく、これからが問題だな」
 表情を引きしめたインスに、凛花は頷いた。

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