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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

「証拠の品が蔵にあるのは見届けた」
「いちばんてっとり早いのは、牧使さまに届け出て、県監を捕らえる方法だろうな。牧使は同じ地方役人でも県監よりは、はるかに位階も高いし、権限もある。しかも、話の判る良識を備えた方だと聞いているから、力になって下さるだろう」
「確かに良策だとは思う。しかし、牧の役所まで事の次第を伝えにゆく者が必要だ。私たちがここを離れるわけにはゆかない。そなたに信頼できるかつての部下がいたとしても、牧役所まで往復する時間を考えれば、県監がその間に財物をどこかに移し替える可能性があるとは考えられないか?」
「道理だな。あの夜、計画は成功したもの、結局、何者かが忍び込んだのは県監にバレてる。大方、万悪く仲間が蔵の見張り連中の様子でも見にきたんだろう。だから、あんなにも早く見つかったんだ。あれは予想外だった」
「つまり、県監が警戒を強め、財物を他所に移すかもしれない」
 凛花はなおいっそう声を潜めた。
「ならば、どうする? 都にまで使者を立てていては、牧の役所に行くどころの話ではない刻と手間がかかるぞ。しかも、国王さまがすぐに対処して下さるとは限らない。俺たちにとっては死活問題だが、悪逆非道な県監に苦しめられているのは何もこの地方だけではないからな。似たような話なら、朝鮮全土に転がってる。都にも訴えは結構出てるはずだから、その一つ一つに対応するのも難しいだろうよ」
インスがやり切れないように言った。
 そう、そのように民から不当に搾取する地方官がいるからこそ、暗行御使は存在するのだ。
 凛花は小首を傾げた。
「少しだけ待ってくれないか。私に考えがある」
「何か妙案でも?」
 顔を覗き込まれ、凛花は頷いた。
「―ある」
 県監の不正の証拠はしかと見た。後は、どうやって県監の屋敷に乗り込み、御使として裁きを行うかだ。それに、凛花には見過ごせない県監のもう一つの悪事があった。何も民衆からの不当な搾取だけではない。
 ヘジンまでもが犠牲となった数々の婦女暴行、殺害。その罪をも問うには、まだ証拠が足りない。
 一体、どうすれば―。

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