
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第8章 発覚
凛花は湖岸に佇み、はるか彼方の水平線に眼を凝らす。鈍色の空が頭上低く垂れ込め、凍った湖面と殆ど同化している。どこまでが空でどこまでが湖なのか判別ができなかった。
二人からさほど離れていない場所に、忘れ去られたように小さな小屋が建っている。漁師か海女たちが夏の間、使うのだろうか。
家というよりは掘っ立て小屋と呼んだ方が良いような粗末なものだ。小屋の屋根にも雪がかなり積もっている。
あまりに眼を凝らしすぎたせいで、眼の奥がつんと痛い。雪の白さが眼に眩しかった。
「まず、そなたには謝らなければならない」
凛花は重い口を開いた。
「謝る? 別に俺の方はとんと身に憶えはないがなあ。お前、俺に何か謝らなければならないようなことをしたか?」
インスが戸惑い気味に返すのに、凛花は淡く微笑した。
「ちょっと待っていてくれ、あそこで着替えてくる」
「えっ、おっ、おい」
凛花は持参した風呂敷包みを持つと、さっさと掘っ立て小屋まで歩いてゆく。インスの方はといえば、呆気に取られているだけだ。
小屋に入った凛花は、一枚、一枚、纏っている衣装を剥ぎ取ってゆく。それは凛花が今まで纏っていた〝偽り〟という名の衣たちであった。オンドルも何もない小屋の中は身を切るように寒かったけれど、凛花は凍てつく寒さよりも、自分の本当の姿を見たときのインスの反応の方が怖かった。
生まれたままの姿―本来の自分に戻った凛は再び一枚ずつ別の衣装を重ねてゆく。久しぶりに身につけたチマチョゴリは、涙が出るほど懐かしかった。
やはり、自分は女なのだとしみじみ思った。パジチョゴリよりは、こちらの方がはるかにしっくりと身に馴染んでいる。男と女、両方の性を生きてみて、皮肉にも初めて判ったことだった。
小屋の戸を開ける前は、流石に緊張した。深呼吸して扉を開けると、外へと踏み出す。
恐らく小屋の中にいたのは、時間にしてはたいしたものではなかっただろうが、凛花にとっては永遠の時が過ぎたかのようだった。
インスは脚許の雪を拾っては、湖面にぶつけている。暇潰しのつもりなのか。
二人からさほど離れていない場所に、忘れ去られたように小さな小屋が建っている。漁師か海女たちが夏の間、使うのだろうか。
家というよりは掘っ立て小屋と呼んだ方が良いような粗末なものだ。小屋の屋根にも雪がかなり積もっている。
あまりに眼を凝らしすぎたせいで、眼の奥がつんと痛い。雪の白さが眼に眩しかった。
「まず、そなたには謝らなければならない」
凛花は重い口を開いた。
「謝る? 別に俺の方はとんと身に憶えはないがなあ。お前、俺に何か謝らなければならないようなことをしたか?」
インスが戸惑い気味に返すのに、凛花は淡く微笑した。
「ちょっと待っていてくれ、あそこで着替えてくる」
「えっ、おっ、おい」
凛花は持参した風呂敷包みを持つと、さっさと掘っ立て小屋まで歩いてゆく。インスの方はといえば、呆気に取られているだけだ。
小屋に入った凛花は、一枚、一枚、纏っている衣装を剥ぎ取ってゆく。それは凛花が今まで纏っていた〝偽り〟という名の衣たちであった。オンドルも何もない小屋の中は身を切るように寒かったけれど、凛花は凍てつく寒さよりも、自分の本当の姿を見たときのインスの反応の方が怖かった。
生まれたままの姿―本来の自分に戻った凛は再び一枚ずつ別の衣装を重ねてゆく。久しぶりに身につけたチマチョゴリは、涙が出るほど懐かしかった。
やはり、自分は女なのだとしみじみ思った。パジチョゴリよりは、こちらの方がはるかにしっくりと身に馴染んでいる。男と女、両方の性を生きてみて、皮肉にも初めて判ったことだった。
小屋の戸を開ける前は、流石に緊張した。深呼吸して扉を開けると、外へと踏み出す。
恐らく小屋の中にいたのは、時間にしてはたいしたものではなかっただろうが、凛花にとっては永遠の時が過ぎたかのようだった。
インスは脚許の雪を拾っては、湖面にぶつけている。暇潰しのつもりなのか。
