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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

 彼には不思議なところがあった。常識人でいつも冷静さを失わない癖に、時折かいま見せる表情や仕種がひどく少年めいて見えるのだ。もっとも、それは彼という男の印象をより魅力的に見せている。
「インス」
 呼びかけると、インスが振り向いた。
 笑顔になりかけたインスの表情が強ばるのが遠目にも判った。
「一体、何の余興なんだ―。ふざけるために、わざわざ玻璃湖くんだりまで来たのか?」
 インスの驚愕も無理はなかった。小屋に入るまでの前と今では全くの別人なのだから。
 凛花は黙ってゆっくりとかぶりを振る。
「謝らなければならないと言ったのは、このことだよ」
「お前に女装趣味があるってことか」
 インスがぶっきらぼうに言った。
 凛花は笑った。
「残念ながら、そんな趣味はない。これが私の本当の姿なんだ。今まで、本当のことを言えなくて申し訳ない」
「―やっぱりな」
 インスがフと笑った。
「え、今、何か言った?」
 問い返した凛花をインスが改めてしげしげと見た。
「そう言われて、何となく納得がいった」
「では、インスは最初から私が女だと?」
 いや、と、インスは否定した。
「今の今まで、女だとは思っていなかった。でも、どこか妙だとは思っていたさ。男にしては骨格も小さくて、手脚も細すぎる。お前があんまり男だと言い張るものだから、信じようとしてきたが、心のどこかでは不自然だとも感じていた」
「そうか。本当に何と詫びて良いか判らない」
 凛花は頭を下げた。
 インスがまた笑った。
「別に構わない。俺はお前という人間の内面や本質を見て協力しようと決めたんだ。お前が本当は女であろうが男であろうが、そんなのは関係ないことだ」
「それにしても、似合ってるな」
「えっ」
 凛花が小首を傾げると、インスは少し眼を細めた。
「凄く綺麗だ」
 凛花は自分の衣装を改めて眺めた。

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