
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第8章 発覚
村は何百年以上に渡って存在し、今の村人だけでなく、彼らの先祖たちが暮らしてきた場所なのだ。村長の若くして亡くなった娘もここに永眠(ねむ)っている。村人たちは、かつてこの地に生きていた自分たちの大切な人々を愛するのと同じように、彼らを脈々と育んできた山茶花村に、この土地に無条件の愛情を寄せているのだ。
インスが凛花の背後へと回り込んだ。
何をしているのかと思ったら、後ろ姿を眺めているらしい。
「ホホウ、髪型も違うから、まるで別人だな」
感嘆したように声を上げている。着替えた時、髪も簡単に直したのだ。まだ嫁ぐ前なので、凛花は長い髪を一つに編み、背中に垂らしている。
「大急ぎで直したんだけど、おかしくはない? 髪飾り(リボン)も何もなかったから」
と、インスがいきなり腹を抱えて笑い出した。
「身なりや格好が違うと、言葉遣いも女に戻るのかぁ」
「名前は?」
問われ、凛花は少しの逡巡を見せた。
「本当の名前があるだろう。揚文承ってのも、恐らく偽物だな」
「崔凛花」
小さな声で応えると、インスは優しい笑みを浮かべた。
「良い名前だ。凛とした花のごとく―、まさに、お前にふさわしい名前だと思うぞ」
インスはしばらく無言で凍れる湖を見守っていた。何を考えているのか、その横顔からは窺い知れない。
「どうしても知りたいことがある。どうして、女のお前がわざわざ男になる必要があったんだ?」
インスが唐突に沈黙を破った。視線は依然として地平線の方を向いている。
凛花はか細い声で応えた。
「私のために人が死んだの。私の愚かさがその人を殺した。ゆえに、私はその人が生きるるはずだった人生を代わりに生きることにしたのよ」
「それで、お前がその男になり代わったのか!」
インスが茫然と呟いた。
彼の果たせなかった夢を。
彼の紡ぎたかった未来を。
凛花のせいで、彼が死んだ。
―だから、凛花が代わりに受け継いだ。
インスが凛花の背後へと回り込んだ。
何をしているのかと思ったら、後ろ姿を眺めているらしい。
「ホホウ、髪型も違うから、まるで別人だな」
感嘆したように声を上げている。着替えた時、髪も簡単に直したのだ。まだ嫁ぐ前なので、凛花は長い髪を一つに編み、背中に垂らしている。
「大急ぎで直したんだけど、おかしくはない? 髪飾り(リボン)も何もなかったから」
と、インスがいきなり腹を抱えて笑い出した。
「身なりや格好が違うと、言葉遣いも女に戻るのかぁ」
「名前は?」
問われ、凛花は少しの逡巡を見せた。
「本当の名前があるだろう。揚文承ってのも、恐らく偽物だな」
「崔凛花」
小さな声で応えると、インスは優しい笑みを浮かべた。
「良い名前だ。凛とした花のごとく―、まさに、お前にふさわしい名前だと思うぞ」
インスはしばらく無言で凍れる湖を見守っていた。何を考えているのか、その横顔からは窺い知れない。
「どうしても知りたいことがある。どうして、女のお前がわざわざ男になる必要があったんだ?」
インスが唐突に沈黙を破った。視線は依然として地平線の方を向いている。
凛花はか細い声で応えた。
「私のために人が死んだの。私の愚かさがその人を殺した。ゆえに、私はその人が生きるるはずだった人生を代わりに生きることにしたのよ」
「それで、お前がその男になり代わったのか!」
インスが茫然と呟いた。
彼の果たせなかった夢を。
彼の紡ぎたかった未来を。
凛花のせいで、彼が死んだ。
―だから、凛花が代わりに受け継いだ。
