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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

 凛花が泣き止むまで、インスは辛抱強く待ってくれた。何も言わず、ただ優しく髪を撫でてくれて。そんな仕種も亡くなったあの男をしきりに思い出させる。
 凛花が落ち着きを取り戻した後、インスは凛花から手を放した。
 冷静になってみると、取り乱した自分がひどく恥ずかしい。凛花は頬を赤らめた。
「何だか可愛いよな。凛花、お前は絶対、今の方が良い。男の姿も悪くはないが、何かこう、痛々しいというか、無理して踏ん張ってるって感じがして、見てるこっちの方が辛くなるようなところがあるんだ」
 眩しげに見つめてくるインスの視線を意識すると、いっそう頬が熱くなってゆく。
 凛花は首を振った。
「まだ、そういうわけにはゆかない。村の問題もある」
 暗行御使としての使命を思い出すと、自ずと身の内が引き締まるような、頬に宿った熱も引いてゆくようだ。
「これを見てくれ」
 女姿をしていながらも、凛花がまた男の言葉を使い出した―、そのことにインスも異変を感じたようだ。
 凛花は懐から馬(マ)牌(ペ)を取り出した。ずっしりとした重みが凛花に一瞬だけ忘れそうになっていた任務を思い起こさせてくれる。
 凛花の差し示した馬牌をひとめ見て、インスは絶句した。物に動じない彼にも、流石におよそ予測でき得る事態の域をはるかに越えていたのだ。
 地方官を務めていたインスには、それが何を示すかを瞬時に悟ったようだ。
「これは」
 少しく後、インスは口を開きかけ、また押し黙った。
「何故、凛花が馬牌を持っている?」
 インスが鋭く口を挟んだ。
「インス、私の恋人は義禁府の武官だった。本当なら、この馬牌は彼が持つはずだったんだ」
「―っ!」
 インスは信じられないといった顔で首を振った。
「ならば、お前は暗行御使になるはずだった想い人の身代わりになったというのか!?」
「ああ、そのとおりだ」
 凛花は頷き、はるかなまなざしを湖に向けた。

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