山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第8章 発覚
「これが私にできる精一杯のことだった。彼の生きるべき人生を代わりに生きようと決めた時、私は崔凛花ではなくなった」
「馬鹿な。女が男になり代わるだけでも面倒なのに、その上、暗行御使になるなどあり得ない」
インスがもどかしげに唸った。
凛花は凍った湖を見つめ、淡々と言う。
「これで、私が何ゆえ、身の上を偽り山茶花村に来たか、その理由が判っただろう?」
インスからの応(いら)えはなかった。
凛花は頓着せず、話し続ける。
「そなたがどう思おうが、これが私の選んだ道だ。私はこの生き方を後悔はしていない。そして、そなたの協力を得られようが得られまいが、前に進まねばならないのだ」
インスが噛みつくような口調で言う。普段、滅多に激昂しない彼には珍しいことだ。
「それは、つまり県監の不正を暴くということか?」
「そのとおりだ。私は女だからと自分に甘えを許すつもりはない。御使になろう決めた時、私は女であることも棄てた。文龍さまにははるかに及ばなかったとしても、全力を尽くして、あの方の夢を叶えようと思ったのだ」
「だが、一体、どうやって県監の不正を暴くつもりだ? お前は昨日、考えがあるとは言っていたが―」
インスの指摘に、凛花は微笑む。
「ある。今し方、私は女であるのを止めたと言ったが、今回は逆にそれを利用しようと思う」
「利用、というのは?」
「言葉のままだ、女であることを利用する」
「まさか、ムンス―」
言いかけて、インスが耐えられないというように烈しく首を振った。
「自らが囮となると? そういうことなのか」
凛花は淡い微笑をとどめたまま、静かに首肯する。
「俺には到底、信じられないことだ、凛花」
「信じられないのなら、それで良い」
凛花は天を振り仰ぐ。
一旦は止んだ雪がまた降り始めていた。
雪が風に乗って、舞う。
くるくる、くるくる。
凛花は掌を開き、舞い落ちてくる雪を受け止めた。花びらを思わせる白い雪は忽ちにして儚く溶けてゆく。
「俺なら、絶対に自分の女を県監の許にゆかせたりはしない」
「馬鹿な。女が男になり代わるだけでも面倒なのに、その上、暗行御使になるなどあり得ない」
インスがもどかしげに唸った。
凛花は凍った湖を見つめ、淡々と言う。
「これで、私が何ゆえ、身の上を偽り山茶花村に来たか、その理由が判っただろう?」
インスからの応(いら)えはなかった。
凛花は頓着せず、話し続ける。
「そなたがどう思おうが、これが私の選んだ道だ。私はこの生き方を後悔はしていない。そして、そなたの協力を得られようが得られまいが、前に進まねばならないのだ」
インスが噛みつくような口調で言う。普段、滅多に激昂しない彼には珍しいことだ。
「それは、つまり県監の不正を暴くということか?」
「そのとおりだ。私は女だからと自分に甘えを許すつもりはない。御使になろう決めた時、私は女であることも棄てた。文龍さまにははるかに及ばなかったとしても、全力を尽くして、あの方の夢を叶えようと思ったのだ」
「だが、一体、どうやって県監の不正を暴くつもりだ? お前は昨日、考えがあるとは言っていたが―」
インスの指摘に、凛花は微笑む。
「ある。今し方、私は女であるのを止めたと言ったが、今回は逆にそれを利用しようと思う」
「利用、というのは?」
「言葉のままだ、女であることを利用する」
「まさか、ムンス―」
言いかけて、インスが耐えられないというように烈しく首を振った。
「自らが囮となると? そういうことなのか」
凛花は淡い微笑をとどめたまま、静かに首肯する。
「俺には到底、信じられないことだ、凛花」
「信じられないのなら、それで良い」
凛花は天を振り仰ぐ。
一旦は止んだ雪がまた降り始めていた。
雪が風に乗って、舞う。
くるくる、くるくる。
凛花は掌を開き、舞い落ちてくる雪を受け止めた。花びらを思わせる白い雪は忽ちにして儚く溶けてゆく。
「俺なら、絶対に自分の女を県監の許にゆかせたりはしない」