山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第8章 発覚
凛花はインスを見た。
「私はインスの恋人じゃない」
「そういう問題ではないだろうッ!!」
インスは見るからに努力して、怒りを抑えようとしているように見えた。
「インスは多分、思い違いをしている。私だって、この方法を選択するまでは随分と思い悩んだよ。果たして上手くゆくのか、あまりにも無謀すぎはしないかと幾度も自問自答した。今だって、正直言えば、怖いんだ。相手は老獪な県監だ。私のような小娘にまんまとしてやられるほど甘い奴ではないかもしれない。そう思ったら、身体が震えてくる」
インスがハッとした表情で凛花を見る。
凛花は確かに小刻みに身体を震わせていた。
「ならば、何で、何でそんな無茶をする? そなたの言うとおり、この作戦はあまりに無謀すぎる。上手く県監を交わせれば良いが、そうならなかった時―」
インスは言い淀み、溜息を吐いて言葉を継いだ。
「もし、そうならなかったときは、本当に県監の餌食になってしまうかもしれないんだぞ? 本当にそれだけの覚悟ができているのか?」
凛花はその質問には応えず、薄く笑んだ。
その胸の前で握りしめた拳がわずかに戦慄(わなな)いている。
インスは堪りかねたように凛花を引き寄せた。
「こんなに震えているのに、自分でも怖いと訴えているのに、それでも凛花は行くというのか。俺は、そんなお前を黙って行かせなければならないのか」
凛花はインスの逞しい胸に頭を押し当て、コクリと頷いた。
インスが躊躇いがちに手を伸ばす。その手はしばらく空をさ迷っていたが、やがて凛花の背にしっかりと回された。
「俺が幾ら止めても、お前の気持ちは変わらないんだろうな。だが、こんなことを凛花の前で言うのは申し訳ないが、俺はお前の恋人だったという男をやっぱり嫌いだ」
「インス?」
凛花がインスの胸から顔を放し見上げると、インスはやや自嘲めいた笑みで応えた。
「嫉妬だよ。そいつに対する醜い妬みが俺にこんなことを言わせてるんだ。お前が好きだ、凛花」
凛花の黒い双眸は見る間に涙で曇った。
「私はインスの恋人じゃない」
「そういう問題ではないだろうッ!!」
インスは見るからに努力して、怒りを抑えようとしているように見えた。
「インスは多分、思い違いをしている。私だって、この方法を選択するまでは随分と思い悩んだよ。果たして上手くゆくのか、あまりにも無謀すぎはしないかと幾度も自問自答した。今だって、正直言えば、怖いんだ。相手は老獪な県監だ。私のような小娘にまんまとしてやられるほど甘い奴ではないかもしれない。そう思ったら、身体が震えてくる」
インスがハッとした表情で凛花を見る。
凛花は確かに小刻みに身体を震わせていた。
「ならば、何で、何でそんな無茶をする? そなたの言うとおり、この作戦はあまりに無謀すぎる。上手く県監を交わせれば良いが、そうならなかった時―」
インスは言い淀み、溜息を吐いて言葉を継いだ。
「もし、そうならなかったときは、本当に県監の餌食になってしまうかもしれないんだぞ? 本当にそれだけの覚悟ができているのか?」
凛花はその質問には応えず、薄く笑んだ。
その胸の前で握りしめた拳がわずかに戦慄(わなな)いている。
インスは堪りかねたように凛花を引き寄せた。
「こんなに震えているのに、自分でも怖いと訴えているのに、それでも凛花は行くというのか。俺は、そんなお前を黙って行かせなければならないのか」
凛花はインスの逞しい胸に頭を押し当て、コクリと頷いた。
インスが躊躇いがちに手を伸ばす。その手はしばらく空をさ迷っていたが、やがて凛花の背にしっかりと回された。
「俺が幾ら止めても、お前の気持ちは変わらないんだろうな。だが、こんなことを凛花の前で言うのは申し訳ないが、俺はお前の恋人だったという男をやっぱり嫌いだ」
「インス?」
凛花がインスの胸から顔を放し見上げると、インスはやや自嘲めいた笑みで応えた。
「嫉妬だよ。そいつに対する醜い妬みが俺にこんなことを言わせてるんだ。お前が好きだ、凛花」
凛花の黒い双眸は見る間に涙で曇った。