テキストサイズ

山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

「お前がたとえ他の誰を想っていようと、お前の心がいまだに亡くなった男のものであろうと、俺はお前を好きだ」
 インスがやるせなさそうに言った。
「多分、お前に初めて出逢ったときから、俺はお前に惹かれていたんだ。むろん、最初はお前が女だとは知らなかったし、それが恋心と呼べるものだったのかも判らない。でも、何故か、お前の存在が気に掛かって仕方なかった。だから、俺は初対面で余計に無愛想な態度を取ったし、お前には絶対に近づくまいと思った。近づけば、より強く惹きつけられずにはいられないと思ったからだ」
 インスは呟き、ふっと笑う。
「しかし、俺の決心も長くは保たなかったな。お前はお節介でどこか危なっかしくて、放っておけない。気がついたときには、自分から協力するなんて言い出してたんだから、俺自身がいちばんびっくりしたさ」
 突然、強い力で抱き寄せられ、凛花は眼を瞠った。
 何をするのかと一瞬、身構えたものの、インスはじっと凛花を腕に抱いたままだ。
 凛花は身体の力を抜いた。
「凛花はお節介で危なかっしくて、それに泣き虫だ」
 そう言って、インスが自分の額を凛花の額にコツンとくっつけた。
 触れ合った場所から、ほのかな温もりが伝わってくる。
 ああ、生きている、自分もインスも温かな血が通っている生きた人間なのだと実感した。これほど己れの生―〝生きる〟ということを自覚したことはない。
 凛花は県監の数々の悪行を思い出した。県監は罪もない大勢の民を殺したのだ。県監やその手下こそ温かな血が通っていないのではないか。あれは人間の皮を被った鬼に相違ない。
 額をくっつけ合ったまま、インスが言った。
「約束してくれ」
 その言葉に、凛花の意識はふっと現に戻った。苦悩の色がありありと浮かぶインスの瞳に、凛花は衝撃を受けた。
「約束?」
 問い返した凛花の表情は、本来の女姿もあいまって何とも可憐で儚げだった。
 インスが堪えられず凛花を抱く腕に力を込めた。
「必ず生きて帰ってくると、今、ここで俺に約束してくれ」
「―判った、約束するよ。必ず生きて帰ってくる」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ