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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

 凛花が微笑む。
 インスは自分の首に掛けていた首飾りを外し、凛花の首に掛けた。
「これは?」
 物問いたげな瞳にインスが頷く。
「白蝶貝の首飾り(モツコリ)だよ。俺が七つで今の養家に貰われてゆく朝、お守りだと言って母が手ずから掛けてくれたものだ」
「そんな大切なものを貰うわけにはゆかない」
 インスが笑った。
「それなら、後で返してくれ。俺の許に無事に戻ってきて、この首飾りを直接、お前が俺に掛けてくれないか。それまで、これをお前に貸しておくことにするよ」
「ありがとう、それなら、この首飾りはお守りとして大切に預からせて貰う」
 凛花は首飾りを手に取って、じいっと眺める。凛花の親指の爪ほどの大きさの石を革紐でつり下げるようになっており、雫形のその石が白蝶貝なのだろう。ごく(ピンク)淡い(シェ)紅色(ル)に染まった石は触れると、なめらかで、光沢がある。
 凛花の声がかすかに震えた。泣き顔を見られたくなくて、凛花はうつむいた。
「綺麗」
「凛花、泣いているのか?」
 インスが愕いて顔を覗き込んでくる。
「だって、こんな綺麗な首飾りを身につけるのなんて、本当に久しぶりだから」
 声を殺して嗚咽していると、頬にそっと両手を添えられ上向けられた。
 インスの整った貌が近づいてくる。
 彼の唇が落ちてきた時、凛花は静かに眼を瞑った。
 凛花の固く閉じた瞳から透明な雫が溢れ出し、白い頬を流れ落ちる。インスはその度に唇で涙を吸い取った。まるで凛花の内に抱え込む哀しみをすべて吸い取るように、丹念に幾度も吸った。
 静寂が二人を包み込む。静かな時間だけが傍を通り過ぎてゆく。
 雪は止むどころか、次第に烈しさを増していった。
 凍った湖の上に花びらのような雪が舞い落ちる光景は夢の世界のように哀しくも美しかった。
 自分は一生涯、この光景を忘れることはないだろう。凛花はそう思った。
 雪がすべての物音を吸収してしまうのか、湖一帯はすべてが無に帰してしまったかのような荘厳さすら感じさせる静寂に満たされている。

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