山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第1章 騒動の種
淑嬪は後宮においても、王妃に次ぐ立場であり、清宗の寵愛を一身に集める第一の寵妃だ。あまり大きな声では言えないが、後宮で今、最も時めいている淑嬪は、正室の王妃よりも重んじられていると専らの噂だ。
後宮は美しき女人たちがただ一人の男国王をめぐって熾烈な争いを重ね、妍を競い合う場所でもある。王の熱愛する淑嬪失脚を願う者は多いに違いない。
そのように考えた彼は再度、極秘に後宮内の人物相関図を調べ直した。
その結果、淑嬪はむしろ陥れられた気の毒な立場であり、淑嬪を重罪人に仕立て上げようとしたのは他ならぬ王妃と今一人の妃、貞(ソン)嬪であることが判った。
嬪というのは王の側室の位階の一つであるが、王妃に次ぐ高い地位だ。王妃に子はなく、貞嬪には翁主一人しかいない。病弱な世子(セジヤ)の生母は既に病死しており、こちらは脅威にはならないが、もし仮に淑嬪がこれから先、王子を生み奉るようなことがあれば、王は必ず淑嬪の生んだ王子を次の世子に立てるだろう。
清宗の淑嬪への寵愛は、そのように勘繰られても仕方ないほど厚く、並々ならぬものがあった。淑嬪には目下、王子はいないが、この先、王世子の生母という立場にでもなれば、淑嬪の立場はよりいっそう強固なものになってしまう。
淑嬪自身は王の寵愛に驕ることもなく、至って控えめな人柄だ。また、王もその大人しやかな気性を気に入り、熱愛しているのだ。が、嫉妬と疑念に凝り固まった王妃と貞嬪は淑嬪を憎悪するあまり、ありもしない淑嬪の罪をでっち上げた。無実の罪を着せて後宮を追放、あわよくば、毒杯を賜るようになればと仕向けたのである。
その怖ろしい計画はあと少しで上手く成就するかに見えた。しかし、義禁府の武官は緻密な調査を行い、その事実に気づいた。貞嬪に仕える女官を根気強く説得し、けして罪には問わないと約束した上で、彼女が貞嬪の陰謀の手先となって動いたことも証言させた。
動かぬ証拠を突きつけられては、最早そこまでだった。とはいえ、仮にも国母である王妃を罪に問えるはずもない。武官の機転で、陰謀は貞嬪一人で行われたこととなり、囚われていた淑嬪は無事、後宮に戻った。返り咲いた淑嬪への王の寵愛は以前にも増して眩しいばかりで、この様子では、真に淑嬪の四度めの懐妊も間近なのではと、口さがない女官たちはひそかに囁き合っているとか。
後宮は美しき女人たちがただ一人の男国王をめぐって熾烈な争いを重ね、妍を競い合う場所でもある。王の熱愛する淑嬪失脚を願う者は多いに違いない。
そのように考えた彼は再度、極秘に後宮内の人物相関図を調べ直した。
その結果、淑嬪はむしろ陥れられた気の毒な立場であり、淑嬪を重罪人に仕立て上げようとしたのは他ならぬ王妃と今一人の妃、貞(ソン)嬪であることが判った。
嬪というのは王の側室の位階の一つであるが、王妃に次ぐ高い地位だ。王妃に子はなく、貞嬪には翁主一人しかいない。病弱な世子(セジヤ)の生母は既に病死しており、こちらは脅威にはならないが、もし仮に淑嬪がこれから先、王子を生み奉るようなことがあれば、王は必ず淑嬪の生んだ王子を次の世子に立てるだろう。
清宗の淑嬪への寵愛は、そのように勘繰られても仕方ないほど厚く、並々ならぬものがあった。淑嬪には目下、王子はいないが、この先、王世子の生母という立場にでもなれば、淑嬪の立場はよりいっそう強固なものになってしまう。
淑嬪自身は王の寵愛に驕ることもなく、至って控えめな人柄だ。また、王もその大人しやかな気性を気に入り、熱愛しているのだ。が、嫉妬と疑念に凝り固まった王妃と貞嬪は淑嬪を憎悪するあまり、ありもしない淑嬪の罪をでっち上げた。無実の罪を着せて後宮を追放、あわよくば、毒杯を賜るようになればと仕向けたのである。
その怖ろしい計画はあと少しで上手く成就するかに見えた。しかし、義禁府の武官は緻密な調査を行い、その事実に気づいた。貞嬪に仕える女官を根気強く説得し、けして罪には問わないと約束した上で、彼女が貞嬪の陰謀の手先となって動いたことも証言させた。
動かぬ証拠を突きつけられては、最早そこまでだった。とはいえ、仮にも国母である王妃を罪に問えるはずもない。武官の機転で、陰謀は貞嬪一人で行われたこととなり、囚われていた淑嬪は無事、後宮に戻った。返り咲いた淑嬪への王の寵愛は以前にも増して眩しいばかりで、この様子では、真に淑嬪の四度めの懐妊も間近なのではと、口さがない女官たちはひそかに囁き合っているとか。