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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第8章 発覚

「無事に帰ってきたら、そのときには俺の妻になってくれないか?」
「インス―」
 言いかけた凛花の唇にインスが人さし指を当てた。
「応えは帰ってきてからで良い。ゆっくり考えてくれ」
 凛花の髪に白い雪が舞い降りる。インスは凛花の髪を撫でながら呟いた。
「凛花の花嫁姿はきっと信じられないくらい綺麗だろうな。お前を嫁(セクシ)にできる男はこの国一の幸せ者だ」
 凛花は微笑み、そっとインスの身体を前に押した。
「そろそろ行くよ。雪もひどくなってきた。このままでは二人共に風邪を引いてしまう」
 凛花は少し離れた場所で大人しく待つ二頭の馬に眼をやった。白馬と鹿毛は寒さと雪から身を守ろうとでもするかのように、互いに体を寄せ合っている。
 馬たちの毛並みにも薄く雪が積もっていた。
「あの子たちを早く連れて帰ってやってくれ。今日は愉しかったよ、インス。わずかな時間だけれど、本音で語り合えて良かった」
 凛花は笑顔で言い、小さく頭を下げて背を向けた。
 降り止まぬ雪の中を一歩一歩、歩いてゆく。
 一歩前へ進む毎にインスから離れ、二度と後戻りできぬ修羅の道へと向かっているのだ。
 物音一つないしじまを大きな声がつんざいた。
「行くな」
 駆けてくる脚音に、凛花の歩みが思わず止まった。突如として背後から抱きしめられ、凛花は身を強ばらせた。
「頼むから、行かないでくれ」
 インスが凛花の髪に顎を押し当てた。
「俺は弱い駄目な男だ。お前をどうしても行かせたくないと思う。県監の穢れた手がお前に触れると想像しただけで、あいつを今すぐこの手で刺し殺したい」
 凛花は伸ばした手のひらをそっとインスの手に重ねた。
「必ず戻ってくるよ。インスが心配しているようなことは起こらない。そうなる前に、ちゃんと脱出するから。私を信じて待っていて」
 その言葉で、インスは凛花の身体を解き放った。

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