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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第9章 生まれ変わる瞬間

 が、尚凞にしてみれば、とんだお笑いぐさというものだった。妻の姉は色白の楚々とした美人で、同じ血を引いた姉妹とは到底思えない。吏曹判書である義父には二人の娘がいて、彼の妻は正室腹、その姉は庶出である。それでも、本来なら国王の後宮に入れるような身分ではない庶出の娘の方を正妻の養女にする形を取ってまで入内させた。
 哀しいかな、我が妻の容貌を見れば、義父が取った措置も致し方なしと思わざるを得ない。妻は姉と異なり、色黒で眼は狐のように細くつり上がり、鼻と口は異様に大きい。それこそ、まるで気性だけでなく容貌も猪そっくりの女なのだ。
 しかし、妻は現実を認識せず、いまだに自分に代わって後宮に上がった異母姉を恨んでいる。
 妻との間に子はいないが、弟の子―甥を幼い頃から引き取って養子として育てていた。家門はその義理の息子に託せば良いわけだし、尚凞自身に我が子に後を継がせたいという執着はない。彼の頭にあるのは常に出世のと美しい女のことだけだ。尚凞一代の栄華はあくまでも自分自身のものであれば良い。次の世代がどうなろうが、知ったことではなかった。
 要するに、この趙尚凞という男は、刹那的な快楽や享楽を求められれば良いのであって、その他の諸々については一切、取るに足らない些事だと思っている。
 さて、今宵はどんな女と一夜をしっぽりと過ごそうかと考えただけで、だらしなく頬が緩みそうになる。
 とはいえ、最近、尚凞が〝視察〟と称しては村や町をうろつき、気に入った娘を物色するのは最早、噂となって広まっている。若い年頃の娘たちを持つ親は、皆、我が娘が好色な尚凞の毒牙にかかるのを怖れ、真昼間でも家の奥深く娘を隠してしまうのだ。
 事実、〝県監さまのお通りだ〟と先触れの男が叫んだだけで、道端を歩いていた若い女はそそくさと物陰に隠れるし、愉しげに笑いさざめいていた娘たちは親たちが引っ張るようにして家へと押し込める。
 最後に村娘を攫ってきたのは、確かひと月近く前のことだ。役所からも眼と鼻の先の山茶花村の娘だった。あの村の娘たちは殊に美貌揃いだと言われているが、その評判に恥じない娘であった。絶世の美人ではないものの、優しげな顔立ちや今にも泣き出しそうな潤んだ瞳が尚凞の嗜虐心をそそった。

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