山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第9章 生まれ変わる瞬間
こんなことなら、なおのこと、この娘を―いや暗行御使をあのときに殺しておくべきだったのだ!!
こうなったからには、せめて最後に一矢報いてやらねば、尚凞の怒りは収まりそうにもなかった。
尚凞は後ろ手に縛られたまま地面に座っている。そのままの姿勢で大声を出した。
「皆、よおく聞くが良い。この暗行御使はとんだ食わせ者だぞ。馬牌を持つからには正真正銘の御使であることに間違いはなかろうが、何と、この者は男ではなく女だ! そのような馬鹿な話があろうか。女が男のなりをして男になりすまし、暗行御使になるなど、まさに前代未聞のことだ。この者は我らだけではない、この者を信頼して御使に任ぜられた国王殿下をも畏れ多くも騙し奉った。これが天下に弓引く大罪でなくて、何としようぞ」
尚凞は言うだけ言うと、満足げに周囲を見回した。
しかし、居並ぶ役人たちからは、彼が期待していた反応は全く見られなかった。
尚凞は焦って、更に言い募る。
「儂の話が嘘だと思うのなら、この御使を今、ここで裸にしてみれば良い。儂の言うことがすべて真実だと判るであろう」
それでも、役人たちは顔色一つ変える者すら、いない。
突然、下級役人の中の一人が叫んだ。
「そんなことは、どうだって良いさ」
「おうよ。御使さまが男であろうが、女であろうがなんて、俺たちには何の問題にもならない。この御使さまは今まで誰もがなし得なかったことを見事に成し遂げて下さった。その結果以外に、何があるっていうんだ? 俺たちにとっちゃア、この方はれきとした立派な御使さまだ!」
「そうだ、そうだ」
役人たちは皆、口々に叫び、その声は一つの大きなうねりとなってワンワンと響き渡った。彼らの御使を讃える歓呼の声は役所の庭だけでなく、その外―道ゆく人々にまで届いたのである。
「暗行御使さま、御使さま~」
―文龍さま。聞こえますか? 無力な私が文龍さまの果たせなかった夢を何とか果たせました。
凛花は彼らに向かって佇み、眼を閉じてその大音声を聞いていた。
こうなったからには、せめて最後に一矢報いてやらねば、尚凞の怒りは収まりそうにもなかった。
尚凞は後ろ手に縛られたまま地面に座っている。そのままの姿勢で大声を出した。
「皆、よおく聞くが良い。この暗行御使はとんだ食わせ者だぞ。馬牌を持つからには正真正銘の御使であることに間違いはなかろうが、何と、この者は男ではなく女だ! そのような馬鹿な話があろうか。女が男のなりをして男になりすまし、暗行御使になるなど、まさに前代未聞のことだ。この者は我らだけではない、この者を信頼して御使に任ぜられた国王殿下をも畏れ多くも騙し奉った。これが天下に弓引く大罪でなくて、何としようぞ」
尚凞は言うだけ言うと、満足げに周囲を見回した。
しかし、居並ぶ役人たちからは、彼が期待していた反応は全く見られなかった。
尚凞は焦って、更に言い募る。
「儂の話が嘘だと思うのなら、この御使を今、ここで裸にしてみれば良い。儂の言うことがすべて真実だと判るであろう」
それでも、役人たちは顔色一つ変える者すら、いない。
突然、下級役人の中の一人が叫んだ。
「そんなことは、どうだって良いさ」
「おうよ。御使さまが男であろうが、女であろうがなんて、俺たちには何の問題にもならない。この御使さまは今まで誰もがなし得なかったことを見事に成し遂げて下さった。その結果以外に、何があるっていうんだ? 俺たちにとっちゃア、この方はれきとした立派な御使さまだ!」
「そうだ、そうだ」
役人たちは皆、口々に叫び、その声は一つの大きなうねりとなってワンワンと響き渡った。彼らの御使を讃える歓呼の声は役所の庭だけでなく、その外―道ゆく人々にまで届いたのである。
「暗行御使さま、御使さま~」
―文龍さま。聞こえますか? 無力な私が文龍さまの果たせなかった夢を何とか果たせました。
凛花は彼らに向かって佇み、眼を閉じてその大音声を聞いていた。