山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第2章 もみじあおいの庭
ソクチェが白い眉を下げる。
「いやいや、儂は何もそなたを責めているわけではない。ただ、聟どのがめでたいはずの日に何故、浮かぬ顔をしているのか気がかりになっておるのだ」
今夜の訪問は、凛花との祝言の日取りをいよいよ正式に決めるためのものだ。本当なら昼間に訪ねるべきどころだが、義禁府の勤務が多忙で、なかなか時間が取れないのだ。
既に祝言の日程は、ソクチェと文龍の話し合いでほぼ決まった。二人は、明年の春吉日に凛花が十八歳になるのを待っての祝言ということで一致している。
ソクチェには文龍の物想いは心外に相違ない。一年前に正式に結納を交わして以来、やっと婚礼の日が決まったのだ。
ソクチェは、凛花と文龍が互いに慕い合っているのを誰よりよく知っている。皇氏と申氏の両方の親戚にそれぞれ相次いで不幸が重なったため、なかなか華燭の実現に至らなかったのだが、来年になれば、晴れて喪が明ける。
凛花は今頃、自室で文龍の訪れを今か今かと待ち侘びていることだろう。なのに、肝心の文龍がいつになく沈んでいるのをソクチェが不安に思うのも当然であった。
「そう申せば」
ソクチェが自慢の顎髭を撫で、思い出すように言った。
「塞いでいるのは聟どのだけではないな。我が娘もどうも、ここ半月ばかり様子が妙でのう」
その言葉に、文龍は弾かれたように面を上げた。
「凛花が?」
それは初耳である。そこで、文龍は、はたと思い当たった。
どうして、考えなかったのか。朴直善が婚約者である文龍にああまで堂々と凛花を奪うと宣言したのだ。当の凛花にも何かしらの接触―或いは脅しをかけていたとしても不思議ではない。
「凛花の様子に、何か気になることでもあるのですか?」
文龍が何げなく訊ねると、ソクチェは頷いた。
「まあ、凛花のことは、後でそなたから訊ねてみてやってくれ。儂がとやかく言うより、そなたの方が凛花も素直に心を開くであろう」
「いやいや、儂は何もそなたを責めているわけではない。ただ、聟どのがめでたいはずの日に何故、浮かぬ顔をしているのか気がかりになっておるのだ」
今夜の訪問は、凛花との祝言の日取りをいよいよ正式に決めるためのものだ。本当なら昼間に訪ねるべきどころだが、義禁府の勤務が多忙で、なかなか時間が取れないのだ。
既に祝言の日程は、ソクチェと文龍の話し合いでほぼ決まった。二人は、明年の春吉日に凛花が十八歳になるのを待っての祝言ということで一致している。
ソクチェには文龍の物想いは心外に相違ない。一年前に正式に結納を交わして以来、やっと婚礼の日が決まったのだ。
ソクチェは、凛花と文龍が互いに慕い合っているのを誰よりよく知っている。皇氏と申氏の両方の親戚にそれぞれ相次いで不幸が重なったため、なかなか華燭の実現に至らなかったのだが、来年になれば、晴れて喪が明ける。
凛花は今頃、自室で文龍の訪れを今か今かと待ち侘びていることだろう。なのに、肝心の文龍がいつになく沈んでいるのをソクチェが不安に思うのも当然であった。
「そう申せば」
ソクチェが自慢の顎髭を撫で、思い出すように言った。
「塞いでいるのは聟どのだけではないな。我が娘もどうも、ここ半月ばかり様子が妙でのう」
その言葉に、文龍は弾かれたように面を上げた。
「凛花が?」
それは初耳である。そこで、文龍は、はたと思い当たった。
どうして、考えなかったのか。朴直善が婚約者である文龍にああまで堂々と凛花を奪うと宣言したのだ。当の凛花にも何かしらの接触―或いは脅しをかけていたとしても不思議ではない。
「凛花の様子に、何か気になることでもあるのですか?」
文龍が何げなく訊ねると、ソクチェは頷いた。
「まあ、凛花のことは、後でそなたから訊ねてみてやってくれ。儂がとやかく言うより、そなたの方が凛花も素直に心を開くであろう」