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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第2章 もみじあおいの庭

 凛花の身体が小刻みに震えている。
 文龍は困ったように頭をかいた。
「そなたが泣くと、私は、どうふるまえば良いか判らなくなる。良い歳をした大人でも、ほら、このとおり、女を慰める言葉一つ、口にできぬ無粋な男だ」
 わざとおどけて見せているのは、文龍なりの優しさであり労りであった。
 彼の持つ彼らしい優しさが伝わってきて、余計に涙が溢れてくる。だが、文龍は泣き止まない凛花に困っている。
 文龍の優しさに応えるためにも、ここは泣き止まなければならない。後から後から溢れてくる涙を堪え、凛花は懸命に微笑もうと試みる。しかし、それは失敗に終わった。
 凛花の顔に浮かんだのは、どう贔屓目に見ても泣き笑いにしか見えない中途半端な表情だ。
 凛花の奇妙な表情に、文龍が胸を衝かれたようだ。
 しばらく思案するように眼を伏せていた文龍がふと明るい声音になった。
「だが、こんな朴念仁でも、記念すべき夜には何か贈らねばと思って、これを持ってきた」
 〝どうだ?〟と、まるで幼子が母親に得意技を披露するように自慢げに懐から小さな牡丹色の巾着を取り出す。
 おもむろに差し出された小さな巾着を開くと、涼やかな音を立てて手のひらに零れ落ちてきたのは二つの指輪であった。どうやら対の指輪らしく、一つは男性の指に合うくらいで少し大きめ、もう一つは凛花の細い指に丁度ぴったり塡(はま)るくらいのものだ。
 透明に近い乳白色の石は蛋白(オパール)石だろうか。
 凛花が指輪に見蕩れていると、文龍が小さい方の指輪を凛花の指に嵌めてくれた。
「素敵」
 凛花は不覚にもまた泣きそうになり、慌てて眼裏で涙を乾かす。
「でも、文龍さま。何故、今夜、この指輪を私に?」
 凛花が訊ねると、文龍が笑った。
「今夜は記念すべき夜だからと言わなかったか?」
「あ―」
 凛花がやっと得心がいったと言いたげに、胸に片手を当てた。
「今宵は待望の祝言の日取りが決まった夜だ。これが記念すべき日でなくて、何と呼ぼう」
「そう、ですね。そのとおりです」
 今更に頷く凛花をちらりと見て、文龍はこれもわざとらしい溜息を大仰についた。

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