山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第1章 騒動の種
やがて、フッと花のように可憐な容(かんばせ)に明らかに侮蔑の表情を浮かべた。
「あなたはその歳になって、幼子のように親の名を持ち出そうとなさるのですか? 親の威光がなければ何もできないのは、情けない。そのような者を世間では腰抜けというそうですが」
「何だとォ」
男が腰に佩(は)いた刀を抜いた。
ナヨンが〝ヒ〟と短く悲鳴を上げる。
「下がっていて、ナヨン」
凛花は低い声で告げると、懐から小刀を取り出した。
男を守るように、これまで影のように控えていた従者が前に出る。
「良い、手出しはするな」
「しかし―」
口ごもる従者に、男が吠える。
「女にここまであからさまに侮蔑されたのだぞ? そなたは私にこれ以上の恥をかかせるつもりか?」
言い終わらぬ中に、男はいきなり斬りかかってきた。
凛花は小刀を持ったまま、右、左と男の繰り出す一撃を自在に交わす。それは見ていて、あたかも大人が幼児を相手に鬼ごっこをしているようにも見えた。
凛花の方はまだ刃も抜いてはいないのに、男は既に息が上がっている。どうやら達者なのは口ばかりで、武術の方はからきし駄目らしい。
かなり長い間、さんざん追いかけっこを続けた挙げ句、凛花は男の利き腕に手刀を叩き込んだ。
男の表情が信じられないものでも見るかのように凍りつき、左手から刀が落ちる。派手なこしらえの長刀は乾いた音を立てて地面に転がった。
凛花が極上の笑みを見せる。
「若さま、本当の男らしさとは口ではなく、力で示すものにございます。どうやら、若さまは強さというものを勘違いなさっているご様子、真に強き者は弱き者を苛めたり不条理な真似は致しません。むしろ、惜しみなく慈しみの心を民に注げる者こそが強き者なのです。どうか、この店の女将に出費に見合うだけの金子をお支払い下さいますように。そうそう、店の机や椅子を壊した分もお忘れなきように」
凛花の余裕たっぷりの態度に、男の蒼白だった面に紅みが差した。
「あなたはその歳になって、幼子のように親の名を持ち出そうとなさるのですか? 親の威光がなければ何もできないのは、情けない。そのような者を世間では腰抜けというそうですが」
「何だとォ」
男が腰に佩(は)いた刀を抜いた。
ナヨンが〝ヒ〟と短く悲鳴を上げる。
「下がっていて、ナヨン」
凛花は低い声で告げると、懐から小刀を取り出した。
男を守るように、これまで影のように控えていた従者が前に出る。
「良い、手出しはするな」
「しかし―」
口ごもる従者に、男が吠える。
「女にここまであからさまに侮蔑されたのだぞ? そなたは私にこれ以上の恥をかかせるつもりか?」
言い終わらぬ中に、男はいきなり斬りかかってきた。
凛花は小刀を持ったまま、右、左と男の繰り出す一撃を自在に交わす。それは見ていて、あたかも大人が幼児を相手に鬼ごっこをしているようにも見えた。
凛花の方はまだ刃も抜いてはいないのに、男は既に息が上がっている。どうやら達者なのは口ばかりで、武術の方はからきし駄目らしい。
かなり長い間、さんざん追いかけっこを続けた挙げ句、凛花は男の利き腕に手刀を叩き込んだ。
男の表情が信じられないものでも見るかのように凍りつき、左手から刀が落ちる。派手なこしらえの長刀は乾いた音を立てて地面に転がった。
凛花が極上の笑みを見せる。
「若さま、本当の男らしさとは口ではなく、力で示すものにございます。どうやら、若さまは強さというものを勘違いなさっているご様子、真に強き者は弱き者を苛めたり不条理な真似は致しません。むしろ、惜しみなく慈しみの心を民に注げる者こそが強き者なのです。どうか、この店の女将に出費に見合うだけの金子をお支払い下さいますように。そうそう、店の机や椅子を壊した分もお忘れなきように」
凛花の余裕たっぷりの態度に、男の蒼白だった面に紅みが差した。