
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第3章 策謀
細い眼がキョロキョロと終始所在なげに動いているのから察しても、この男がかなりの小心者だと知れた。
―行ける。
文龍は小さく頷いた。今はまだ時期尚早だと読み、今しばらく同じ場所で内官が出てくるのを待ち続けるつもりだ。
彼の思惑どおり、内官はネタン庫の前まで来ると、幾つかの鍵をじゃらじゃらいわせた挙げ句、鍵束から一つの鍵を選んだ。それを鍵穴に挿し扉を開けると、小柄な内官の姿はすぐに建物の中に消えた。
内官が再び姿を見せたのは、文龍が考えていた時間よりもかなり長かった。
危険を冒す場合、あまりに長居をしていては身の破滅に繋がると教えられなかったのか?
彼の睨んだように、どうもあまり頭の回転は良くなさそうだ。まあ、その方が文龍の仕事はよりやり易くはなる。
文龍は首を捻った。一度に大人数で大量に運び出した方が効率が良さそうなものだ。なのに、何故、この男は手に持てるほど―少なくとも袖や懐に隠せる程度のものしか持ち出さないのだろうか。
目まぐるしく考えている中に、はたと思い至った。
この内官が内侍府長から鍵を預かっているのを良いことに、時折、バレない程度に宝物をかすめ取って懐に入れているのかもしれない。仮にも王室の財宝である。玉の細工物一つを町で売っても、この男が数年は遊んで暮らせるだけの金子にはなるはずだ。
予想どおりに事が運んだと思い込み、内官はご機嫌のようだ。夜目にも、彼がほくそ笑んでいる表情がはっきりと判る。
何も知らない内官は微妙に膨らんだ懐を片手で押さえるようにして歩いている。今度は来たときほど早足ではなかった。あまりに気が急いて、かえって折角盗んだ宝物を落としてしまったら、人眼につく怖れがあるということだろう。その辺は内官も用心しているようだ。
文龍は、数歩離れた後ろから、つかず離れず付いてゆく。陳貴人の殿舎の辺りまで戻ってきたその時、素早く近づいて、背後から羽交い締めにした。
「ヒ、ヒッ」
みっともない悲鳴が内官の口から洩れた。
ここで騒がれたら、堪ったものではない。文龍は内官の口を手のひらで覆い、剣の切っ先を喉許に突きつけた。
―行ける。
文龍は小さく頷いた。今はまだ時期尚早だと読み、今しばらく同じ場所で内官が出てくるのを待ち続けるつもりだ。
彼の思惑どおり、内官はネタン庫の前まで来ると、幾つかの鍵をじゃらじゃらいわせた挙げ句、鍵束から一つの鍵を選んだ。それを鍵穴に挿し扉を開けると、小柄な内官の姿はすぐに建物の中に消えた。
内官が再び姿を見せたのは、文龍が考えていた時間よりもかなり長かった。
危険を冒す場合、あまりに長居をしていては身の破滅に繋がると教えられなかったのか?
彼の睨んだように、どうもあまり頭の回転は良くなさそうだ。まあ、その方が文龍の仕事はよりやり易くはなる。
文龍は首を捻った。一度に大人数で大量に運び出した方が効率が良さそうなものだ。なのに、何故、この男は手に持てるほど―少なくとも袖や懐に隠せる程度のものしか持ち出さないのだろうか。
目まぐるしく考えている中に、はたと思い至った。
この内官が内侍府長から鍵を預かっているのを良いことに、時折、バレない程度に宝物をかすめ取って懐に入れているのかもしれない。仮にも王室の財宝である。玉の細工物一つを町で売っても、この男が数年は遊んで暮らせるだけの金子にはなるはずだ。
予想どおりに事が運んだと思い込み、内官はご機嫌のようだ。夜目にも、彼がほくそ笑んでいる表情がはっきりと判る。
何も知らない内官は微妙に膨らんだ懐を片手で押さえるようにして歩いている。今度は来たときほど早足ではなかった。あまりに気が急いて、かえって折角盗んだ宝物を落としてしまったら、人眼につく怖れがあるということだろう。その辺は内官も用心しているようだ。
文龍は、数歩離れた後ろから、つかず離れず付いてゆく。陳貴人の殿舎の辺りまで戻ってきたその時、素早く近づいて、背後から羽交い締めにした。
「ヒ、ヒッ」
みっともない悲鳴が内官の口から洩れた。
ここで騒がれたら、堪ったものではない。文龍は内官の口を手のひらで覆い、剣の切っ先を喉許に突きつけた。
