
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第3章 策謀
咄嗟のことで、内官も反撃できない。まあ、仮に反撃してきたところで、ろくに剣も扱えぬこの男は文龍の敵ではない。強者揃いの義禁府では皇文龍は剣にかけては特に抜きん出ているとの定評があるのだから。
「生命が惜しければ、騒ぐな」
およそ普段の彼からは信じられないような凄みのある声は地を這うようだ。
はやそれだけで、気の弱い内官は大きく何度も頷いて見せた。
文龍は内官の口から手を放してやった。
「だ、誰なんだ。私を殺したって、誰も歓ばないぞ」
依然として後ろから身動きを封じられたままの体勢で、内官が言った。
文龍は更に声を低め、酷薄そうに聞こえるように言った。
「そうかな? お前は、あまりに多くの秘密を知りすぎている。どうせ、私がここで殺さずとも、もうすぐ消される運命だ」
内官はギョッとして、明らかに動揺を隠せないようである。
「私が何故、殺されねばならないのだ?」
文龍は、フと嘲るような笑みを浮かべた。
「欲に眼が眩んで、事のからくりも見えなくなってしまったのか」
良いか、よく聞けよ。
文龍はそう囁いてから、一拍の間を開けた。次の言葉を待つ間、相手は警戒を強める。その方が相手の恐怖心をいや増す効果があるからだ。
「右相大監、いや、内侍府長がお前を利用するだけ利用して、面倒が起こる前に口封じをするだろうとは考えたことはないのか?」
「ば、馬鹿な、内侍府長がそのようなことをなさるはずがない」
内官はムキになったように言い募る。
「私の言葉を信じられぬというなら、それでも良い」
文龍は剣をつうっと皮膚にすべらせる。表面すれすれのきわどい部分を切るのは並みの技では、できない。男の喉に薄く紅い筋が走り、血が滲んだ。
内官は大いに狼狽えた。
「わ、判った、話す。話すから」
すっかり怯え切った様子の内官に念を押すのも忘れない。
「おっと、振り向くなよ。私の顔を見れば、生かしてやれなくなる。折角繋がった首が今今度こそ飛ぶぞ」
「生命が惜しければ、騒ぐな」
およそ普段の彼からは信じられないような凄みのある声は地を這うようだ。
はやそれだけで、気の弱い内官は大きく何度も頷いて見せた。
文龍は内官の口から手を放してやった。
「だ、誰なんだ。私を殺したって、誰も歓ばないぞ」
依然として後ろから身動きを封じられたままの体勢で、内官が言った。
文龍は更に声を低め、酷薄そうに聞こえるように言った。
「そうかな? お前は、あまりに多くの秘密を知りすぎている。どうせ、私がここで殺さずとも、もうすぐ消される運命だ」
内官はギョッとして、明らかに動揺を隠せないようである。
「私が何故、殺されねばならないのだ?」
文龍は、フと嘲るような笑みを浮かべた。
「欲に眼が眩んで、事のからくりも見えなくなってしまったのか」
良いか、よく聞けよ。
文龍はそう囁いてから、一拍の間を開けた。次の言葉を待つ間、相手は警戒を強める。その方が相手の恐怖心をいや増す効果があるからだ。
「右相大監、いや、内侍府長がお前を利用するだけ利用して、面倒が起こる前に口封じをするだろうとは考えたことはないのか?」
「ば、馬鹿な、内侍府長がそのようなことをなさるはずがない」
内官はムキになったように言い募る。
「私の言葉を信じられぬというなら、それでも良い」
文龍は剣をつうっと皮膚にすべらせる。表面すれすれのきわどい部分を切るのは並みの技では、できない。男の喉に薄く紅い筋が走り、血が滲んだ。
内官は大いに狼狽えた。
「わ、判った、話す。話すから」
すっかり怯え切った様子の内官に念を押すのも忘れない。
「おっと、振り向くなよ。私の顔を見れば、生かしてやれなくなる。折角繋がった首が今今度こそ飛ぶぞ」
