
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第3章 策謀
「信用できるのか?」
向こうとしても、それは是非とも訊いておかねばならないだろう。
「むろんだ」
文龍は相手を安心させ、信頼させるためにも、確信に満ちた口調で応えてやった。
「右相大監や内侍府長がどれほどあくどくて冷酷な奴らかは、お前もよく知っているはずだ。使われるだけ使われて、あっさりと切り棄てられる前に、逃げた方が利口だぞ」
思い当たる節があるのか、内官は貧相な身体をわなわなと震わせている。その怯え様は、文龍に脅かされているからというよりは、何か怖ろしい出来事を思い出している風であった。
「確かに、そなたの言い分にも一理はある。私の前にネタン庫の鍵を預かっていた若い内官は一年前に死んだ」
内官の唇が戦慄いた。
「殺(や)られたのか?」
訊ねれば、彼はもどかしげに首を振った。
「判らない。そいつは内侍府長のお気に入りで、亡くなった日の夜も内侍府長のお伴をして、町の妓房まで呑みに出かけていたんだ。私が奴の元気な姿を見たのは、夕刻、町に出かける前のことだった。王宮に帰ってきた時、あいつは既に骸(むくろ)になってた。何でも、急な心ノ臓の発作を起こしたとか内侍府長は言っていたが、本当かどうかなんて、判ったものじゃない」
「そこまで知りながら、次は自分の番ではないと確信が持てるのか?」
畳みかけるように言うのに、内官は震える声でようよう言った。
「そなたの申すことが真なら、いずれにせよ、私は殺される」
「そうなる前に、逃げ出せば良い」
文龍は事もなげに言い、これまでより幾分口調をやわらげた。
「もう十分に溜め込んだだろう、王宮を出て人知れず、妻子とゆっくり暮らせ。私が良きように取り計らってやる。これまでの悪事は忘れて、人並みに幸せになってはどうだ?」
「あんた、何者だ?」
内官の問いに、文龍は不敵な笑みを浮かべた。
「おっと、それは訊かない約束だ。その方がお前の身のためだと言ったろう」
それでもまだ迷っている風な内官に、文龍は最後の仕上げとばかりに迫る。
それにと、意味ありげに男の顔と財宝を交互に見つめた。
向こうとしても、それは是非とも訊いておかねばならないだろう。
「むろんだ」
文龍は相手を安心させ、信頼させるためにも、確信に満ちた口調で応えてやった。
「右相大監や内侍府長がどれほどあくどくて冷酷な奴らかは、お前もよく知っているはずだ。使われるだけ使われて、あっさりと切り棄てられる前に、逃げた方が利口だぞ」
思い当たる節があるのか、内官は貧相な身体をわなわなと震わせている。その怯え様は、文龍に脅かされているからというよりは、何か怖ろしい出来事を思い出している風であった。
「確かに、そなたの言い分にも一理はある。私の前にネタン庫の鍵を預かっていた若い内官は一年前に死んだ」
内官の唇が戦慄いた。
「殺(や)られたのか?」
訊ねれば、彼はもどかしげに首を振った。
「判らない。そいつは内侍府長のお気に入りで、亡くなった日の夜も内侍府長のお伴をして、町の妓房まで呑みに出かけていたんだ。私が奴の元気な姿を見たのは、夕刻、町に出かける前のことだった。王宮に帰ってきた時、あいつは既に骸(むくろ)になってた。何でも、急な心ノ臓の発作を起こしたとか内侍府長は言っていたが、本当かどうかなんて、判ったものじゃない」
「そこまで知りながら、次は自分の番ではないと確信が持てるのか?」
畳みかけるように言うのに、内官は震える声でようよう言った。
「そなたの申すことが真なら、いずれにせよ、私は殺される」
「そうなる前に、逃げ出せば良い」
文龍は事もなげに言い、これまでより幾分口調をやわらげた。
「もう十分に溜め込んだだろう、王宮を出て人知れず、妻子とゆっくり暮らせ。私が良きように取り計らってやる。これまでの悪事は忘れて、人並みに幸せになってはどうだ?」
「あんた、何者だ?」
内官の問いに、文龍は不敵な笑みを浮かべた。
「おっと、それは訊かない約束だ。その方がお前の身のためだと言ったろう」
それでもまだ迷っている風な内官に、文龍は最後の仕上げとばかりに迫る。
それにと、意味ありげに男の顔と財宝を交互に見つめた。
