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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第3章 策謀

 内官から漸く望んでいた言葉を引き出し、文龍はわざと重々しく頷いた。
「賢明な判断だ」
「本当に生命は保証してくれるんだろうな。それこそ、利用だけされて口封じに消されるのはご免だぞ」
 内官がくどいほど繰り返すのも、無理はない話だった。
 文龍は、しっかりとした口調で請け合う。
「もちろんだ。先刻も約したとおり、生命を助けるだけでなく、生涯に渡って暮らしに困らないだけの金を受け取れるようにしてやる」
 そいつは、ありがたい。
 内官の呟きを聞きながら、これで漸く一つの山を越えた―と文龍は胸撫で下ろしていた。
 そして。内官は確かに文龍の顔を見てはいなかったが、文龍もまた内官の表情を見たわけではなかった。そこに、一つの誤算が生じた。やっと拘束を解かれた内官の顔に狡猾そうな表情が浮かんでいたことに、文龍は気づかなかった―。

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