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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第3章 策謀

 文龍を花になぞらえるのはともかく、その文龍にたとえた花の生命が終わるなどと。
 間違っても、考えるべきことではない。
 強く自分を戒め、凛花は続きを刺してしまおうと再び針を手に取った。
 そのときだった。
 両開きの扉の向こうから、明るい声が聞こえた。
「お嬢さま」
 聞き慣れたナヨンの声である。
 凛花もまた朗らかに応えた。
「どうしたの?」
 扉が開いて、ナヨンが入ってきた。
「表に妙な子どもが来ているのです」
「子ども?」
 凛花は首を傾げた。少なくとも、凛花の知り合いに子どもと言える年齢の者はいない。父は人付き合いが下手で、親戚付き合いもろくにしていないし、母方の従兄弟(いと)姉妹(こ)たちとは逢ったこともない。
「お嬢さまにお逢いしたいの一点張りなのです。何か逢って伝えたいことがあるとか申しているのですけれど」
「―良いわ、逢いましょう」
 気軽に立ち上がった凛花に、ナヨンが顔色を変えた。
「いけません。どこの子かも判らぬ得体の知れぬ者にお逢いになるなどと」
 凛花が事もなげに言う。
「子どもなのでしょ、別にいきなり斬りかかってくるわけでもないと思うわ」
「見たところ、身なりもみすぼらしいし、お嬢さまがわざわざお逢いになる必要もないと思いますよ。お気になるのなら、私が用件を聞いてお伝えしますから」
「あら、それでは、その子が納得しないのでしょう。いつまで経っても、押し問答を続けなければならないわ」
 時間の無駄よ。
 凛花はそう言って、ナヨンが止めるのもきかず、縁廊から階を軽やかな脚取りで降りた。そのまま絹の刺繍靴を履き、庭を歩いてゆく。

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