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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第3章 策謀

「お嬢さま~」
 と、ナヨンが困り切った顔で追いかけるのは、これはもういつもの光景だ。
 確かに門を入ったすぐの場所に、子どもが立っていた。十歳前後に見えるが、全体的に成長が十分でないようだ。身に纏ったパジチョゴリも薄汚れていて、至る箇所が破れている。
 どこもかしこも凛花の手でさえ力を込めれば折れそうなのは、恐らく栄養不足のせいだろう。
「あなた、幾つ?」
 男の子は問われるままに、〝十三〟と応える。
 凛花は小さく息を呑んだ。
 十三歳といえば、凛花と三つしか違わない。それなのに、小柄な凛花と比べても、少年は随分と小さかった。よくよく見ると、十歳どころか、八歳くらいにしか見えない。
「私に何か伝えたいことがあるそうだけれど」
 凛花が続けると、少年は頷いた。
「うん。直接、このお屋敷のお嬢さまに逢って、渡せって言われたから」
 彼は襤褸を纏っているにしか見えないチョゴリの懐から、くしゃくしゃになった紙を取り出し、おもむろに差し出した。
「これは?」
「お嬢さまに渡せって」
 少年はまた同じ科白を繰り返した。少し頭の回転が遅いのかもしれないが、それも深刻な栄養不足が原因だろうか?
 考えながら皺くちゃの紙を受け取ると、それは封筒だった。急いで開いてみる。
―次の満月の夜、面白いものを見せてやる。そう言えば、そなたの許婚者は義禁府きっての手練れだそうだな。その恋しい男が今、何の任務に就いているか、そなたは知っているのか? 皇文龍は今、密偵として極秘裏に右議政や内侍府長の身辺を嗅ぎ回っているぞ。それがどれだけ無謀で危ないことなのか、あの男は心得ているのかな? もし、そなたがその茶番を見にきたいのなら、商人李蘭輝の屋敷まで出向くことだ。

 ざっと眼を通した凛花は、蒼白になった。
「お嬢さま?」
 ナヨンが気遣わしげに見つめてくる。
 凛花は無理に微笑みをこしらえた。
「何でもないの。他愛ない悪戯よ」
 慌てて手紙を封筒に戻し、袖に仕舞う。
 改めて使い走りの少年に訊ねてみた。
「この文を見た?」

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