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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第3章 策謀

「じゃあ、身分は? 両班、それとも、職人か商人だったの? 歳は若かったのかしら、老人だったのかしら。ああ、それと、男だったか女だったか、それだけでも憶えてない?」
 矢継ぎ早に問われ、彼はまた考え込んだ。
 やがて、訥々と思い出しながら応える。
「男で、物凄く綺麗な人だった。あれは、どう見ても両班だね。俺らとは全然違う世界の人だ」
「ありがとう。よく思い出してくれたわ。お陰で助かった」
 凛花が少年に微笑みかけると、彼は少し眩しそうに凛花を見つめ、ニッと笑った。
「お嬢さまは綺麗だし、良い匂いがする。俺の母ちゃんや妹たちとは大違いだ。俺、お嬢さまの役に立てて良かったよ」
「これ、馴れ馴れしく無礼なことを申すものではありません」
 傍らからナヨンが窘めるのに、凛花は笑って止めた。
「良いのよ」
 少年がおずおずと訊いた。
「俺のような賤しい者でも、頑張って立派な人間になれば、お嬢さまを嫁さんにできるのかな?」
「まっ、何という身の程知らずなことを」
 ナヨンがまた柳眉をつり上げる。
 凛花は微笑んだ。
「それはどうか判らないけれど、努力して立派な人になるのは良いことよ。あなたは賢そうだから、きっと将来は人の役に立てるような人間になれるわ。希望を棄てないで、そうなれるように頑張ってね」
 どうやら、この少年は見かけほど鈍重ではなさそうだ。もし、適切な教育を受けられたなら、社会に貢献できる人間になるのではと思えた。
「ナヨン。この子を風呂に入れて上げて、何か温かいものを食べさせてちょうだい。後は、こざっぱりした衣服に着替えさせてね」
 ナヨンにてきぱきと指示し、その場を去ろうとするその背に、変声期真っ只中の声が追いかけてきた。外見はまるで子どもだが、少年の身体は確実に青年へと変貌を遂げつつあるらしい。
「そうそう、お嬢さま。もう一つ思い出したよ。俺に手紙を持っていくように言った人は、若い男だった」
「ありがとう。本当に助かったわ」
 凛花は振り向き、少年に手を振ると、急ぎ足で屋敷の方に戻っていった。

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